夜に浴びる光が多い人ほど心臓に「害になりうる変化」
寝る前にスマホを枕元に置いたら、画面がぼんやり光ったまま眠ってしまった。
寝室を暗くするのはぐっすり眠るため、というのが普通の考え方でしょう。
ところが近年、夜に浴びる光が、心臓や血管の病気のリスク(病気になる危険を高めるもの)になるかもしれないと考えられるようになってきました。
それでも、夜の光を浴びた心臓そのものに何が起きているのかは、分かっていませんでした。
そこでチューレーン大学(Tulane University)の研究チームは、約1万1000人が夜に浴びた光を測り、その後の心臓の様子を調べました。
では、寝室のわずかな明かりは、心臓の形や働きとどう結びついていたのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年7月8日に『European Heart Journal』にて発表されました。
目次
- 手首のセンサーで「夜に浴びた光」を測った
- 夜にかすかな光を浴びていた人の心臓に、何が起きていたのか?
- 夜の光と心臓をつなぐ道筋の一つは「短い眠り」かもしれない
手首のセンサーで「夜に浴びた光」を測った
心臓病や脳卒中などの心臓や血管の病気は、アメリカでも世界全体でも死因の第1位です。
これまでの観察研究(人々の暮らしと健康を記録して比べる研究)でも、夜の光と、心臓や血管の病気のなりやすさとの結びつきは報告されていました。
しかし研究を率いたルー・チー教授は、心臓の形や働きがどう変わるのかについては「ほとんど分かっていない」と話します。
チームが使ったのは、イギリスの健康調査「UKバイオバンク」に参加した1万1071人のデータです。
参加者は、光のセンサーが入った機器を手首に付けて、7日間を過ごしています。
これで、夜にどれくらいの明るさの光を浴びていたかを記録したのです。
参加者のなかには、夜に浴びる光がほぼ真っ暗な0ルクス(ルクスは明るさの単位)の人もいれば、さまざまな明るさの光を浴びる人もいました。
最も明るいグループは、3ルクスを超える光を浴びていた人たちです。
3ルクスとは、ベッド脇で暗めに光るスマホの画面や、少し開けたドアの外についた廊下の明かりくらいの明るさだといいます。
まぶしさとはほど遠い、ささやかな光です。
そして約3年後、参加者は心臓MRI(磁気の力で心臓の様子を画像にする検査)を受けました。
さらにチームは、7万3286人について、その後の8〜10年で心臓や血管の病気になった人や亡くなった人がどれくらいいたかも調べました。
夜にかすかな光を浴びていた人の心臓に、何が起きていたのか?
ほかの条件の影響を統計の上でできるだけ取りのぞいて比べると、夜に3ルクスを超える光を浴びていた人と、まったく浴びていなかった人の心臓には、ちがいが見られました。
光を多く浴びていた人では、心臓の左心室(心臓の左側にある部屋)の壁が厚くなっていたのです。
左心室の重さ(身長をもとにならした値)は2.4%大きく、壁の平均の厚さは1.5%厚くなっていました。
壁が厚くなったぶん、部屋の内側の空間はせまくなっていたといいます。
その一方で、心筋(心臓をつくる筋肉)がどれだけ縮んで働いているかの目安は、1.9%低くなっていました。
心臓が拍動するたびにしなやかに形を変える力も、向きによって2.7〜2.9%ほど弱まっていました。
これは、まだ症状として表に出ない段階での、心臓の働きの低下にあたります。
チームは、心臓がうまく働かなくなることの早いサインだと見ています。
変化は左心室だけにとどまりませんでした。
右心室(心臓の右側にある部屋)では、血液がたまったときと送り出したあとの部屋の容積を補正した値が、それぞれ0.9%と1.6%大きくなっていました。
左心房(左心室の上にある、血液を受け入れる部屋)でも、いちばん広がったときの容積を補正した値が2.3%大きく、血液を送り出す割合は1.1%低くなっていました。
しかもどの結びつきも、浴びる光が多いほど心臓の変化も大きくなるという、まっすぐな関係を示していたのです。
チー教授は、このような変化を「心臓リモデリング」と呼びます。
長く続くストレスや心臓の傷に応じて、心臓の形や働きが変わっていく現象です。
教授によれば、これは体がストレスに合わせようとする反応ですが、最終的には心臓を弱らせ、心不全につながることもあるといいます。
実際に、8〜10年の追跡からは、病気との結びつきも見えてきました。
夜の光を多く浴びていた人は、浴びていなかった人にくらべて、心不全になるリスクが29%高かったのです。
ほかにも、脈が不規則に乱れる心臓の病気「心房細動」は15%、心筋梗塞は24%、脳卒中は33%、心臓や血管の病気で亡くなるリスクは26%高くなっていました。
夜の光と心臓をつなぐ道筋の一つは「短い眠り」かもしれない
では、なぜ夜の光がこうした変化と結びつくのでしょうか。
分析すると、多くの結びつきについて、その一部を「睡眠時間の短さ」で統計の上から説明できることが分かりました。
説明できた割合は、24〜49%ほどです。
つまり、夜の光で眠りが短くなることが、心臓の変化へとつながる道筋の一つになっているのかもしれません。
ただし今回の研究は、夜の光と心臓の変化が「結びついていた」ことを示したもので、光が心臓を変えたと直接確かめたわけではありません。
それでも夜の光は、年齢や遺伝とちがい、多くの人が自分で減らせるものです。
寝る前に画面を消す、カーテンを閉める、アイマスクをして眠るといったことだけで、光は遠ざけられます。
チー教授は、今回の結果とほかの研究の証拠をあわせると、医師や政策を決める人たちは、夜の光を減らすことを心臓病を防ぐ手立ての候補の一つとして検討すべきだと考えられる、と述べています。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(夜の光で心臓病リスクが「40~50%も激増」過去最大規模の研究で判明)
真っ暗な寝室は、ぐっすり眠るための場所であると同時に、心臓をいたわる場所でもあるのかもしれません。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(寝るときは真っ暗がベスト。寝室のわずかな照明がうつ病のリスクを高める)
参考文献
Light exposure at night may be bad for your heart (Futurity)
https://www.futurity.org/light-exposure-night-sleep-heart-health-3347172/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=light-exposure-night-sleep-heart-health-3347172
元論文
Nighttime light exposure and cardiac structure and function
https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehag563
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部