昼休みの教室で机に突っ伏して寝たふりをしながら、周りの笑い声だけを聞いていた記憶がある人もいるでしょう。


そうした「ひとりぼっち」の感覚は、学校を卒業すれば終わる話のようにも思えます。


けれども、その感覚は何年もたってからの「働き方」と本当に無関係なのでしょうか。


アメリカで10代の若者を大人になるまで追いかけた調査のデータを使い、思春期の孤独と、大人になってからの雇用の不安定さの関係を調べた研究が報告されました。


研究では、学校や近所への「愛着」がこの関係を変えるのかどうかも確かめています。


10代の孤独は、将来の仕事にどんな影を落とすのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年9月1日に『Journal of Research on Adolescence』にて発表されました。




目次



  • 10代から大人まで追いかけた「きょうだい」のデータ
  • 孤独と将来の働き方のつながりが弱まっていたのは、どんな10代?

10代から大人まで追いかけた「きょうだい」のデータ


10代から大人まで追いかけた「きょうだい」のデータ / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

いま若い大人の間では、不安定な働き方をする人が増えています。


けれども、10代のころの人とのつながりが大人になってからの働き方とどう関係するのかは、あまり分かっていませんでした。


そこで研究では、アメリカ全国から選ばれた80の学校の生徒を、長い年月をかけて追いかけた調査のデータを使いました。


最初の調査は1994〜1995年で、7〜12年生(日本の中学1年〜高校3年にあたる学年)が対象でした。働き方を調べた最後の調査は2008〜2009年に行われています。


分析に使われたのは、このうちきょうだいで参加していた3101人です。


10代の孤独は、「この1週間、寂しいと感じたか」「人に嫌われていると感じたか」「自分は愛され、必要とされていると思うか」など5つの質問への答えをまとめて、数字にしました。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(「ボッチプレイ」が長い10代ほど大脳皮質の表面積が小さい傾向)


大人になってからの働き方は、収入、有給休暇の有無、労働時間、同じ仕事が続いている期間、仕事の数、年金や健康保険、職場で自分で決められる余地などから調べています。


これらをまとめて、0(最も安定)から5(最も不安定)までの「雇用の不安定さ」の点数にしたのです。


この研究の工夫は、同じ家庭で育ったきょうだい同士を比べる方法を使った点にあります。


きょうだいなら育った家庭の事情が共通しているので、その影響が結果に紛れ込むのを防げるからです。


では、10代で孤独を感じていた人は、大人になってどんな働き方をしていたのでしょうか。


孤独と将来の働き方のつながりが弱まっていたのは、どんな10代?


孤独と将来の働き方のつながりが弱まっていたのは、どんな10代? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

分析の結果、10代のころに孤独を強く感じていた人ほど、大人になってからの雇用が不安定な傾向が見られました。


この関係は、きょうだい同士を比べて家庭の事情をそろえた後も残っていました。


つまり、この結びつきは「どんな家庭で育ったか」だけでは説明しきれないのです。


追加の分析では、特につながりが強かったのは、仕事の安定性、休暇や年金・保険といった手当を受けられるかどうか、そして職場で自分で決められる余地に関わる部分でした。


次に研究では、学校と近所の地域への「愛着」がこの関係を変えるかを調べました。


ここでいう学校への愛着とは、学校に自分の居場所があると感じる気持ちのことです。


その結果、学校への愛着が強かった10代では、孤独と雇用の不安定さのつながりが弱まっていました。


一方で、近所の地域への愛着には、そうしたはっきりした働きは見られませんでした。


研究者たちは、学校こそがこの関係を和らげる大切な場になっていると見ています。


ただし、今回示されたのは両者の「関連」で、孤独そのものが働き方を不安定にすると確かめられたわけではありません。


また、労働者の団体づくりや職業訓練など、雇用の不安定さに関わる面の中には、調査データに含まれていなかったため測れなかったものもあります。


対象はアメリカの若者で、10代の調査は1990年代半ばに行われたものです。


それでもこの研究は、若い大人の働き方の格差を考えるうえで、10代の孤独と学校での居場所が見落とせない要素であることを示しています。


10代の「ひとりぼっち」は、その時だけの気分ではなく、何年も先の働き方にまで影を伸ばしているのかもしれません。


そして、その影を薄くする手がかりは、毎日通う学校の中の「ここにいていい」という感覚にあるのかもしれません。


全ての画像を見る

参考文献

Adolescent loneliness and precarious employment in young adulthood: The moderating role of school attachment (Journal of Research on Adolescence)
https://doi.org/10.1111/jora.70266

元論文

Adolescent loneliness and precarious employment in young adulthood: The moderating role of school attachment
https://doi.org/10.1111/jora.70266

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「思春期に孤独だった人」ほど大人になって不安定なものとは 」