創造性への自信を大きく左右する「あるもの」とは
飲み会のお絵描きゲームで順番が回ってきた瞬間、「自分、センスないんで」と苦笑いしてペンを隣に回してしまう人がいます。
「自分はわりと創造的なほうだ」と思う人もいれば、「まったく向いていない」と思う人もいます。
この「創造性への自信」の差は、生まれ持った遺伝子で決まるのでしょうか、それとも育ちや経験で決まるのでしょうか。
ブラジル・サンパウロ大学の研究チームは、ブラジルの双子98組を調べて、この問いに迫りました。
研究内容の詳細は2026年6月23日に『Personality and Individual Differences』にて発表されました。
目次
- 双子で「創造性への自信」を測るしくみ
- 創造性への自信を大きく左右していた「あるもの」
- 小さな双子調査から言えること、言えないこと
双子で「創造性への自信」を測るしくみ
創造性とは一般に、まわりの求めや困りごとに応じて、新しくて役に立つアイデアを生み出す力のことです。
今回の研究では、これを「芸術の創造性」と「日常の創造性」の2つに分けて考えました。
芸術の創造性は、絵や音楽、演技のように、表現や美しさに関わるものです。
日常の創造性は、壊れた物をあり合わせで直したり、込み入った人付き合いを切り抜けたりと、毎日の困りごとの解決策を見つける力です。
ただし今回調べたのは実際の創造力ではなく、「自分はどれくらい創造的か」という本人の見方、つまり創造性への自信です。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(ADHDの人の創造性が高い理由は「注意散漫」にこそあった)
この自信は、創造的なことに挑戦するか、難しい壁にぶつかっても粘るかを左右する心の特徴だとされています。
そこで使われたのが、双子を比べる「双子研究」です。
一卵性の双子はDNAをすべて共有し、二卵性の双子はおよそ半分を共有しています。
両者の似かたを比べると、ある特徴の個人差に遺伝と環境がどれくらい関わっているかを見積もれるのです。
環境はさらに、同じ家で育つといった「きょうだいが共有する環境」と、それぞれの友人関係や恩師、趣味のような「共有しない環境」に分けられます。
これまでの双子研究では、自分で答えた創造性に遺伝がほどほどに関わり、共有する環境の影響は小さいという結果がよく見られてきました。
ただし数字は測り方や調べた集団によってばらつき、南米の人々はまだ調べられていませんでした。
チームが協力を得たのは、ブラジルの双子196人(98組)です。
内訳は一卵性が79組、二卵性が19組で、参加者は女性が多く、若い大人で、中流層の人が中心でした。
参加者は、自分の芸術の創造性と日常の創造性を、それぞれ0〜10の11段階で1問ずつ採点しました。
創造性への自信を大きく左右していた「あるもの」
一卵性と二卵性の双子の点数の似かたを統計モデルで比べたところ、芸術の創造性への自信の個人差のうち、遺伝で説明できたのは約22%でした。
日常の創造性への自信も約21%と、ほぼ同じでした。
2つをまとめた「創造性への自信全体」として見ても、遺伝の関わりは約24%でした。
つまり、自分をどれくらい創造的だと思うかの個人差のうち、遺伝で説明できたのはおよそ5分の1ほどだったのです。
では、残りの8割近くは何によるものだったのでしょうか。
その答えは、きょうだいとも共有しない「その人だけの環境」でした。
共有しない環境は、芸術の創造性への自信の差の約78%、日常の創造性への自信の差の約79%を占めていました。
一方で、同じ家で育つ、同じ親をもつといった共有する環境には、統計的に意味のある影響が見られませんでした。
同じ家庭で育ったこと自体は、双子の自信を似せる方向にはほとんど働いていなかったことになります。
また、芸術と日常の2つの自信について、遺伝による個人差のうち52〜57%は、両者に共通する1つの要素で説明できました。
遺伝の面では、2種類の自信がある程度根っこを共有しているようです。
なお、好奇心の強さも1問で尋ねていましたが、統計モデルがデータにうまく当てはまらなかったため、その結果は解釈されませんでした。
研究チームのヴァレラ氏(生物学者)は、「ブラジルの小さく、国全体を代表していないサンプルではありますが、自分を創造的だと考える度合いの人による違いのうち、およそ4分の1から5分の1が遺伝的な要因によるものでした」と述べています。
さらに同氏は、「この個人差の大部分は、一人ひとりに固有の環境、つまりきょうだいや他の誰とも共有しない環境によるものです」と説明しています。
小さな双子調査から言えること、言えないこと
ただし、この研究にはいくつか注意点があります。
参加者の数は比較的少なく、とくに二卵性の双子は19組しかいませんでした。
そのため数字の誤差の幅は広く、たとえば芸術の創造性では、遺伝の割合がありそうな範囲(95%信頼区間)は1%から43%にまで広がっていました。
参加者も女性や若い大人、中流層に偏っており、ブラジル全体を代表しているわけではありません。
さらに、測ったのは1問ずつの簡単な自己評価であり、実際の創造力や、アイデアを次々と広げる力、創造的な実績を示すものではないと研究チームは注意しています。
それでも今回の結果は、ブラジルと中南米で、双子をもとに創造性への自信を見積もった最初の手がかりになりました。
「自分には創造性がない」という感覚は、生まれつき決まった運命のように思えるかもしれません。
しかし少なくとも今回の双子では、その個人差の大部分は遺伝ではなく、一人ひとりが共有しない環境の側にありました。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(IQは遺伝子で決まるのか?「生き別れた双子」の調査から大きなIQの差を確認!)
創造性への自信は、遺伝子から配られるものというより、それぞれの出会いや出来事の中で形づくられてきた部分が大きいのかもしれません。
次にお絵描きゲームが回ってきたら、辞退する前に一度ペンを握ってみるのもいいでしょう。仕上がりの責任までは誰も取ってくれませんが。
参考文献
New study of Brazilian twins sheds light on the heritability of our creative confidence (PsyPost)
https://www.psypost.org/new-study-of-brazilian-twins-sheds-light-on-the-heritability-of-our-creative-confidence/
元論文
Heritability of self-reported artistic and practical/everyday creative self-beliefs in Brazilian twins
https://doi.org/10.1016/j.paid.2026.113946
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部