自殺の考えや行動は「うつ病より遺伝しやすい」と判明
親戚の集まりで「笑い方がお父さんにそっくりね」と言われ、なんだか照れくさくなった経験がある人は多いでしょう。
顔つきやしぐさだけでなく、心の状態にも、生まれつきの違いが関わっていると考えられてきました。
中でも大きな社会の問題になっているのが、自殺について考えたり、実際に行動に移したりしてしまうことです。
そして、自殺と特に強く結びつく要因として知られているのが、うつ病です。
では、自殺の考えや行動は、うつ病とどこまで同じ「根っこ」を持っているのでしょうか。
研究チームは、若い双子たちの長年のデータを使い、遺伝と環境の両面からこの問いに迫りました。
研究内容の詳細は2025年9月24日に『Behavior Genetics』にて発表されました。
目次
- 双子のデータで「遺伝」と「環境」を切り分ける
- 双子を比べて見えてきた、遺伝と環境の「重なり方」
- この研究で言えること、まだ言えないこと
双子のデータで「遺伝」と「環境」を切り分ける
自殺に関わる考えや行動には、自殺について考えること、計画すること、実際に試みることなどが含まれます。
うつ病は自殺の最も強い要因の一つとされていますが、自殺の危険はうつ病だけでは説明しきれません。
実際、自殺について考えたり行動したりした人の中には、はっきりした心の病気の経験がない人もいます。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(自殺や自傷について考えると「こころの痛み」が軽減される)
また、これまでの双子や家族の研究から、自殺の考えや行動には遺伝の違いが一部関わることが示されてきました。
そこで研究チームは、オーストラリアのブリスベンで続いている双子の長期調査のデータを分析しました。
対象は、ヨーロッパ系の若い双子とそのきょうだい、計2876人で、平均年齢は約26歳です。
アンケートでは、2週間以上、ほぼ毎日、一日の大半にわたって気分が落ち込んだ経験がある人に、その間に2回以上、自殺を考えたか、計画したか、試みたかをたずねました。
分析の柱は、一卵性の双子(遺伝子がほぼ同じ)と二卵性の双子(ふつうのきょうだいと同じく、遺伝子の約半分が共通)で答えがどれほど似ているかを比べ、遺伝と環境の影響を見積もる方法です。
さらに「多遺伝子リスクスコア(たくさんの遺伝子の小さな違いをまとめて、生まれつきのなりやすさを見積もる数値)」も使いました。
このスコアは、過去の大規模な研究の結果をもとに、うつ病用と自殺未遂用の2種類を用意しました。
はたして、自殺の考えや行動とうつ病は、同じ根っこから生えているのでしょうか。
双子を比べて見えてきた、遺伝と環境の「重なり方」
まず注目されたのが「遺伝率」です。
遺伝率とは、ある集団の中で人によって違いが出る部分のうち、遺伝の違いでどれくらい説明できるかを示す割合です。
分析の結果、自殺の考えや行動の遺伝率は51〜80%と見積もられました。
これは、うつ病の診断の遺伝率(39〜41%)よりも高い値です。
ただしこれは集団全体についての推定であり、一人ひとりの運命が遺伝で決まっているという意味ではありません。
次にチームは、「遺伝相関(2つのものに関わる遺伝の影響がどれほど共通しているかを示す数値で、大きいほど共通している)」を調べました。
すると、考える・計画する・試みるの3つの間では、0.85〜0.99という非常に高い遺伝相関が見られました。
一方、これら3つとうつ病の診断との遺伝相関は0.48〜0.65で、中くらいにとどまりました。
つまり自殺の考えや行動は、うつ病と遺伝の一部を共有しながらも、まったく同じものではないと考えられます。
さらに違いが際立ったのが、環境の面です。
ここでいう環境とは、家族で共有する環境ではなく、一人ひとりが別々に経験すること(非共有環境)を指します。
うつ病の診断に関わるこうした環境の影響は、自殺の考えや行動に関わる環境の影響とは、大部分が別々でした。
研究チームは、うつ病と自殺の考えや行動が遺伝の仕組みを共有していることを示す、説得力のある証拠が得られたとしています。
一方で、多遺伝子リスクスコアの力は控えめでした。
うつ病用のスコアはうつ病の診断とより一貫して関連しましたが、自殺に関わる結果との関連は、2種類のスコアのどちらも控えめでした。
今のところ、遺伝子の情報から自殺の危険を見積もる力は、まだ限られていると言えそうです。
また研究チームは、一人ひとりの環境の影響が大きいことから、変えられる環境のリスクに取り組む必要があると述べています。
この研究で言えること、まだ言えないこと
もちろん、この研究には限界もあります。
対象はヨーロッパ系の若者に限られ、男女のデータをまとめて分析したため、性別による違いは見えていない可能性があります。
また、考えることと計画することは実際の行動ではなく、行動にあたるのは自殺の試みだけである点にも注意が必要です。
さらに、質問は気分の落ち込みが続いた時期に限ってたずねたものでした。
チームは今後、より大きく多様な集団で結果を確かめ、遺伝と環境が人生を通じてどう影響し合うかを調べる必要があるとしています。
自殺の考えを「うつ病がひどくなった先にあるもの」とだけ捉えると、見落としてしまうものがあるのかもしれません。
遺伝の影響が大きいと推定されても、一人ひとりの経験という、変えていける余地は確かに残っているのです。
もし今つらい気持ちを抱えているなら、一人で抱え込まずに、身近な人や相談窓口に話してみてください。
電話の「#いのちSOS」(0120-061-338、毎日24時間・無料)のほか、厚生労働省の「まもろうよ こころ」で電話やSNSの相談窓口を探せます。
参考文献
Suicidal behaviors are more heritable than depression, new twin study finds (PsyPost)
https://www.psypost.org/suicidal-behaviors-are-more-heritable-than-depression-new-twin-study-finds/
元論文
Genetic Overlap Between DSM-IV Major Depressive Disorder and Suicidal Behaviors: Evidence from Polygenic Risk Scores in Young Adult Twins
https://doi.org/10.1007/s10519-025-10234-0
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部