人気の「関節サプリ」、認知症の手前の人では発症リスク25%増
朝ごはんのあと、膝をさすりながら「関節にいいらしいから」とサプリの粒を飲み込むのが日課になっている方もいるでしょう。
グルコサミンは、関節の違和感や関節の健康のために処方せんなしで広く売られているサプリで、特に高齢の人に人気があります。
これほど多くの人が飲んでいるなら、アルツハイマー病などの認知症に何か影響していないかを確かめる必要があります。
そこで米フロリダ大学(UF)の研究チームは、患者の健康記録の分析に加えて、人の脳組織やマウスを使った実験で、この疑問に迫りました。
では、グルコサミンを飲んでいた人の認知機能は、その後どのような道をたどっていたのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年6月9日に『Nature Metabolism』にて発表されました。
目次
- 認知症の一歩手前「軽度認知障害」とサプリ
- グルコサミンを飲んでいた人は、その後どうなっていたのか?
- 脳の中で「糖の飾り」が増えすぎていた
認知症の一歩手前「軽度認知障害」とサプリ
アルツハイマー病は、認知機能が少しずつ衰えていく深刻な神経変性の病気です。
研究を率いたラモン・サン博士によると、アメリカだけでもアルツハイマー病の人は約700万人おり、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症など関連する認知症の人がさらに数百万人います。
この病気では代謝の乱れが広く見られますが、それが病気の成り立ちにどう関わるのかは、まだ十分に調べられていませんでした。
また、認知症の手前には「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる段階があります。
これは、記憶や思考の問題が普通の老化で予想されるより大きいものの、日常生活には必ずしも大きな支障が出ていない状態のことです。
研究チームはイー・グオ博士やジャン・ビアン博士と協力し、UFヘルス(フロリダ大学の医療機関)の健康記録をAIで分析しました。使ったのは2012年から2024年に集められた記録で、個人を特定できないよう処理されています。
対象は、アルツハイマー病と関連する認知症(ADRD)、または軽度認知障害と診断された患者です。
どちらのグループでも患者の8%がグルコサミンを使っていると申告しており、その数はADRDで1,896人、軽度認知障害で2,750人でした。
年齢や性別などの要因を考慮したうえで、グルコサミンを使う人と使わない人を比べると、どんな違いが見えてきたのでしょうか。
グルコサミンを飲んでいた人は、その後どうなっていたのか?
年齢や性別、人口統計的な要因を考慮して分析したところ、軽度認知障害の人では、グルコサミンの使用が、認知症へ進む可能性が25%高いことと結びついていました。
つまり認知症の一歩手前にいる人の中では、グルコサミンを使っていた人のほうが認知症へ進みやすい傾向にあったのです。
さらに、すでにADRDと診断されていた人では、グルコサミンの使用が、一定期間内に亡くなるリスクが25%高いことと関連していました。
一方で、この死亡リスクとの関連は、軽度認知障害のグループでは見られませんでした。
研究チームはこの違いについて、すでに認知症を発症している段階では、グルコサミンの影響がより強く出る可能性を示していると見ています。
サン博士は「こうした人の多くが、病気の進行を悪化させているかもしれない市販のサプリを積極的に飲んでいます」と述べています。
ただし、この結果は「グルコサミンが認知症の進行を引き起こす」ことを示したものではありません。
健康記録を振り返る観察研究でわかるのは関連までで、サプリを飲む人と飲まない人の間にある別の違いが結果に影響している可能性もあるからです。
共著者のマット・ジェントリー博士も「電子カルテのデータは非常に刺激的です。関連であって因果の証明ではありませんが、今後もっと注目されるべき重要な臨床上の問いを投げかけています」と話しています。
では、関節のためのサプリと脳の病気をつなぐものは、いったい何なのでしょうか。
脳の中で「糖の飾り」が増えすぎていた
研究チームは、この結びつきを説明する手がかりになりうる、体の仕組みの証拠も見つけています。
注目したのは、タンパク質に糖の鎖(糖鎖)を取り付ける「糖鎖修飾(グリコシル化)」という代謝の流れです。
これは細胞にとってごく普通で大切な働きですが、アルツハイマー病ではこれが過剰に活発になっている兆候が見つかりました。
研究チームはまず、アルツハイマー病の人と健康な人の前頭皮質(おでこ側にある大脳の表層部分)の組織を、年齢や性別、死後の経過時間をそろえて3人分ずつ比べました。
分子の分布を場所ごとに画像にする手法で調べました。するとアルツハイマー病の脳では、灰白質(神経細胞の本体が集まる部分)と白質(神経線維が通る部分)の両方で、糖鎖の量が大幅に増えていました。
さらに病気の進み具合(ブラーク分類)ごとに分けた別の患者の脳組織を調べると、灰白質では病気が進むほど糖鎖が増えていく傾向が見られました。
同位体を使って糖鎖の作られ方を追跡する分析などから、研究チームは、脳で糖鎖が増えすぎるのは糖鎖を作る働きが強まるためだと示しています。
次に研究チームは、アルツハイマー病のモデルマウスでこの働きを確かめました。
糖鎖を作る酵素を遺伝的に減らしたマウスでは認知機能の成績が改善した一方で、グルコサミンを口から与えたマウスでは成績が悪化しました。
つまりマウスでは、糖鎖を作る流れを弱めると良い方向に、グルコサミンを加えると悪い方向に働いたのです。
研究チームは、過剰な糖鎖修飾がアルツハイマー病を進める要因の1つであり、糖鎖の代謝が治療の標的になりうると考えています。
サン博士も「私たちの結果は、代謝の変化がアルツハイマー病の進行に大きく関わっていることを示唆しています」と述べています。
ただし今回の結果はまだ予備的なもので、人を対象にした臨床試験で確かめる必要があります。
膝のために飲む粒が、脳の中の「糖の飾りつけ」とつながっているかもしれないという視点は、サプリを体の1か所にだけ効くものと見ていた私たちの思い込みを静かに揺さぶります。
参考文献
Glucosamine, a popular joint supplement, linked to faster Alzheimer’s progression (ScienceDaily)
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/09/260927033754.htm
元論文
Hyperglycosylation is a metabolic driver of Alzheimer’s disease
https://doi.org/10.1038/s42255-026-01538-4
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部