太陽と月が「地震の引き金」になる仕組みが判明した可能性
夕方の海辺で、潮がじわじわと引いていく様子をぼんやり眺めていると、時間まで一緒に流れていくような気分になります。
海の満ち引きを起こしている月と太陽の引力は、実は海だけでなく、地球全体をわずかに揺さぶっています。
これまでの観測でも、この潮の力と、地下の断層がすべる動きとの間には関係があることが指摘されてきました。
しかし、断層を動かすには小さすぎるように思えるこの力が、どうやってすべりのきっかけになりうるのかは、一見すると不思議に感じられます。
そこで今回の研究では、断層を単純な模型に置き換えたコンピューターの計算によって、この謎に迫りました。
月と太陽は、いったいどのようにして大地のすべりを後押ししているのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月1日に『Journal of Geophysical Research Solid Earth』にて発表されました。
目次
- 月と太陽は「地面」も揺さぶっている
- ぎりぎりの断層に「小さな一押し」を加えると?
- すべるタイミングと速さを決めていたもの
月と太陽は「地面」も揺さぶっている
月と太陽の引力が生む「潮汐応力」は、海の水だけに働くわけではありません。
この力は地球全体に及ぶわずかな力の揺さぶりとして、地下の岩や断層にもかかっています。
断層とは地下の岩盤どうしがずれ動く境目のことで、ここが一気にすべると地震になります。
一方で、普通の地震よりもずっとゆっくり断層がすべる「スロー地震」と呼ばれる現象もあります。
今回の研究が注目したのは、潮汐がこうしたゆっくりとしたすべりを引き起こす仕組みです。
研究者たちは、潮汐がどう地震のきっかけになるかを理解することは、小さな力の変化に敏感な地下の環境を見極めるうえで欠かせないと述べています。
そこで研究者たちは、断層を「バネにつながれたブロック」に見立てた、シンプルな模型を使いました。
床の上のブロックをバネで引っぱると、ブロックは摩擦に逆らいながら、すべったり止まったりします。
この摩擦には、すべる速さや接触面の状態によって強さが変わる「速度・状態依存摩擦」という法則が使われました。
想定したのは、速くすべるほど摩擦が弱まる性質を持ちながらも、ぎりぎりのところで安定してすべり続けている断層です。
いわば、安定と不安定の境目のすぐそばで、かろうじて落ち着いている断層だといえます。
では、この断層に潮汐のような小さな力を加えると、何が起きるのでしょうか。
ぎりぎりの断層に「小さな一押し」を加えると?
研究者たちはまず、断層面を押しつける力を、ある瞬間にパッと変える揺さぶりと、一定の時間だけ変えてから元に戻す揺さぶりを加えてみました。
すると、力を変えておく時間がある特定の長さのとき、断層のすべる速さが共鳴のように大きく跳ね上がることがわかりました。
ブランコを押すタイミングがぴったり合うと、小さな力でも大きく揺れるのに似た現象です。
次に研究者たちは、潮汐のように一定の周期で強まったり弱まったりする揺さぶりを加えて、計算を重ねました。
その際、単位に縛られない形に式を整理する「無次元化」という手法を使い、潮汐によるすべりの誘発を左右する鍵となる要素と、その値がとりうる範囲を洗い出しています。
その結果、ごく小さな力の揺さぶりであっても、安定してすべっていた断層に、すべりのイベントを引き起こせることが示されました。
引き起こされたすべりには、規則正しく周期的に繰り返されるものもあれば、時間的に複雑なパターンを描くものもありました。
そして、この誘発の起こり方を主に決めていたのは、無次元化した揺さぶりの「周期」と「振れ幅」でした。
つまり、月と太陽の力が断層を動かせるかどうかは、力の大きさだけでなく、揺さぶりのリズムにも左右されるということです。
すべるタイミングと速さを決めていたもの
研究者たちは、引き起こされたすべりを、実際に観測できる量を使って特徴づけました。
使われたのは、すべりのエネルギーのうち揺れとして放たれる割合の目安となる「放射効率」と、すべりが潮汐のどの段階で起きたかを示す「潮汐位相」です。
解析の結果、揺さぶりの周期が長くなるほど、すべりが起きるタイミングは、潮汐の力が最も大きい瞬間から、力が最も速く増えている瞬間へと移っていくことがわかりました。
一方で、揺さぶりの振れ幅が大きくなると、すべりはゆっくりとしたものから速いものへと移り変わっていきました。
研究者たちによると、この枠組みは、潮汐への敏感さが周期によって変わることや、観測されてきた、潮汐応力と最大すべり速度のタイミングの偏りを説明する助けになるといいます。
さらに、実際の観測で見られる潮汐との関係のパターンを模型の予測と比べれば、断層の性質を探れる可能性があります。
具体的には、その瞬間の境界面の摩擦の強さや、摩擦が弱まるまでにどれだけすべる必要があるかを示す距離を見積もる手がかりになるかもしれないといいます。
ただし、今回の結果は、バネとブロックという単純な模型を用いた理論的な計算によるものです。
また、論文の要旨を見る限り、地震がいつ起きるかを言い当てる方法は示されていません。
私たちが見上げる月と太陽は、夜空を照らすだけでなく、足元の奥深くでぎりぎりに保たれた断層のバランスにも、そっと指先を触れているのかもしれません。
満ち引きに振り回されているのは、どうやら波打ち際で慌ててサンダルを拾う私たちだけではなさそうです。
参考文献
Theoretical Constraints on Tidal Triggering of Slow Earthquakes (Journal of Geophysical Research Solid Earth)
https://doi.org/10.1029/2026jb033983
元論文
Theoretical Constraints on Tidal Triggering of Slow Earthquakes
https://doi.org/10.1029/2026jb033983
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部