地球の深い海にすむ微生物が、土星の衛星エンケラドスの海をまねて作った水の中で増えました。


ミュンヘンにあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学のウィリアム・オルシ教授らが行った実験です。


使ったのは、日本と台湾のあいだにある沖縄トラフの深海で見つかったメタン菌(水素と二酸化炭素からメタンを作って生きる微生物)です。


この微生物は、pH(アルカリ性の強さの目安。数字が大きいほど強い)が11に達する水の中でも育ちました。


これまで知られていた、この微生物が耐えられるpHの限界を大きく超える値です。


エンケラドスは、地球の外で生命を探す場所として、太陽系でいちばん期待を集めてきた天体です。


今回の結果は、エンケラドスが生き物の住める場所かもしれないという見方を後押しするものです。


ただし、エンケラドスで生き物が見つかったわけではありません。


研究内容の詳細は2026年9月25日に『Science Advances』にて発表されました。




目次



  • 氷の衛星エンケラドスの海に「足りないもの」
  • 二酸化炭素がほとんど無い水で、微生物はどうやって増えた?
  • この結果は、エンケラドスの生命探しに何をもたらす?

氷の衛星エンケラドスの海に「足りないもの」


氷の衛星エンケラドスの海に「足りないもの」 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

土星は太陽系でいちばん多くの衛星を持つ惑星で、知られているだけで300個近くあります。


エンケラドスはそのうちの1つで、氷に覆われた小さな天体です。


200年以上ものあいだ、とくに目立つ衛星ではありませんでした。


見方が変わったのは、探査機が土星までたどり着いてからです。


2000年代から、NASAの探査機カッシーニや、最近ではジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、エンケラドスから水蒸気と氷の粒が巨大な噴煙となって吹き出す様子をとらえてきました。


凍った表面の下に、大きな塩水の海が広がっている証拠も見つかっています。


海底には熱水噴出孔(海底の温泉。熱くてミネラルの多い水を出す場所)が点々とあり、周りの水を温めていると考えられています。


化学の手がかりからは、この海が強いアルカリ性で、岩と水の反応によって水素が生まれていることもうかがえます。


水素と二酸化炭素がそろえば、エネルギーの面では、メタン菌が生きるための反応が進みやすい条件になります。


ところが、ここに1つ心配な点がありました。


こうしたアルカリ性の海では、メタン菌が体を作る材料にする二酸化炭素がとても少ないのです。


二酸化炭素が足りないと、メタン菌が自分の体を作れなくなるのかどうかは、分かっていませんでした。


オルシ教授も、この微生物が生きられるかを試すのは「望みの薄い賭けだった」と話しています。


では、二酸化炭素がほとんど無い水の中で、微生物はどうやって暮らしを立てたのでしょうか。


二酸化炭素がほとんど無い水で、微生物はどうやって増えた?


二酸化炭素がほとんど無い水で、微生物はどうやって増えた? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームはまず、エンケラドスの海の小さな模型を実験室で作りました。


水に塩と炭酸塩を混ぜ、粉にした岩を加えたのです。


これで、海の強いアルカリ性だけでなく、水と海底の岩のあいだで起きる大事な反応まで再現しました。


岩と水の反応は活発で、水素がどんどん生まれ始めました。


エンケラドスの海でも起きているとみられる反応です。


この水に入れたのが、沖縄トラフの熱水噴出孔の近くで見つかったメタン菌「メタノサーモコッカス・オキナウェンシス」です。


作った海は、水に溶けた炭素は多いのに、二酸化炭素はとても少ない状態でした。


その中で、微生物は増えていきました。


理由を探るため、研究チームは増えている細胞の中で、どの遺伝子がよく働いているかを調べました。


すると、二酸化炭素を取り込んで体の材料に変える仕組み(還元的アセチルCoA経路)を、とても強く働かせていたことが分かりました。


この仕組みを強めたことで、ごくわずかしかない二酸化炭素を効率よくかき集められたのです。


網の目を細かくして、数の少ない魚も逃さずすくい上げるようなものです。


もう1つ分かったのは、菌が生きる力の出どころです。


二酸化炭素を体に取り込む働きも、生きるためのエネルギーを得る働きも、支えていたのはすべて、作った海で岩と水から生まれた水素でした。


この水素は生き物の手を借りずにできたものなので、実験の中では、岩と水の反応がこの微生物の暮らしを丸ごと支えていたことになります。


この結果は、エンケラドスの生命探しに何をもたらす?


この結果は、エンケラドスの生命探しに何をもたらす? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

オープン大学で惑星地球科学を研究するデイヴィッド・ロザリー教授は、この研究についてこう述べています。


メタン菌を支えるメタン作りの働きが、再現したエンケラドスの海で成り立つと示したことで、「そこで微生物が生きられるかどうかを阻む壁を、また1つ取り除いた」というのです。


オルシ教授もこう話しています。地球で私たちが理解している「細胞でできた生命」という考え方を当てはめるなら、この微生物や似た生き物がエンケラドスにいた場合、生きのびられる見込みは十分にある、と。


ただし、オルシ教授は念を押しています。


もしエンケラドスで生命が生まれていたとしても、地球の生き物とはまったく違うものかもしれない、と。


仮に似た微生物がいたとしても、メタンを作る微生物がその海で栄えられるかどうかは、はっきりしていません。


実験の期間は、ほんの数日だったからです。


「1年生きられるのか。100万年生きられるのか。私たちには分かりません」とオルシ教授は語っています。


一方で、生命の痕跡を見つけやすくなるかもしれない研究も出ています。


同じ学術誌には、今回の研究者の一部も加わった別の論文も載りました。噴煙の氷の粒は、凍って砕けるときに、海に含まれるさまざまな成分を分けてしまうという報告です。


もし海のしずくに地球外の微生物のかけらが入っていれば、それはごく一部の氷の粒にしか現れない代わりに、その粒の中にぎゅっと濃く詰まっているかもしれません。


ベルリン自由大学で惑星科学を研究するフランク・ポストベルク教授は、これを生命探しにとって「素晴らしい知らせ」だとし、今の技術でも生命のしるしを見つけるのは比較的やさしいだろうと述べています。


エンケラドスへ再び向かう計画もあります。


欧州宇宙機関(ESA)の「L4」ミッションは、土星を回る探査機とエンケラドスの南極に降りる着陸機を組み合わせ、噴煙の中に生命のしるしを探そうというものです。


ただ、打ち上げの案は2042年ごろで、土星に着くのは2050年代になります。


氷の下の海に本当に誰かいるのか、答え合わせはまだ先です。


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参考文献

Earth microbes survive simulated conditions of Saturn moon’s ocean (The Guardian Science)
https://www.theguardian.com/science/2026/sep/25/earth-microbes-survive-conditions-enceladus-saturn-moon-ocean-study

元論文

Enceladus-like geochemistry fuels methanogenesis under extreme CO 2 limitation
https://doi.org/10.1126/sciadv.aei0167

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「地球の微生物」が土星の衛星の海を再現した環境で増えると判明 」