カルシウムやビタミンDを補充した人も骨折はほぼ減らなかった
「骨のためだから」と、祖母は毎朝欠かさず、牛乳と一緒に白い小さな錠剤を飲みこみます。
骨を丈夫に保とうと、カルシウムやビタミンDのサプリを飲んでいる人は少なくありません。
ところが、カナダの研究チームが69の試験、約15万人分の結果をまとめると、これらのサプリを補っても骨折や転倒はほとんど、あるいはまったく減っていなかったことが分かりました。
カルシウムだけでも、ビタミンDだけでも、2つを一緒に補っても、結論は変わりませんでした。
ただし参加者の多くは骨折や転倒の危険が特に高くない大人で、骨粗しょう症の薬を使っている人はもともと対象に入っていません。
研究内容の詳細は2026年5月20日に『BMJ』にて発表されました。
目次
- 15万人分の試験をまとめても、骨折はほとんど減らなかった
- くじ引きで分けた試験を集め、「意味のある差」かどうかで判定した
- この結果は、誰にでも当てはまるの?
15万人分の試験をまとめても、骨折はほとんど減らなかった
カルシウムとビタミンDは、昔から骨の健康と深く結びつけて考えられてきました。
カルシウムは骨をつくる主な材料で、ビタミンDは体がカルシウムを取りこむのを助け、骨の新陳代謝も支えています。
医師や診療のガイドライン、行政の機関も、骨のためにビタミンDを(カルシウムと一緒の場合も含めて)よくすすめてきました。
近年は、処方される量もかなり増えていました。
年をとると、転ぶことは大きな心配ごとになります。
65歳以上の大人のおよそ3人に1人は毎年転んでいて、転倒は骨折や長引く痛み、身の回りのことが自分でできなくなることにつながり、ときには介護施設へ移るきっかけにもなります。
ただ、これまでの研究では、カルシウムやビタミンDを1つだけ補っても骨折の危険はおおむね下がらない、という結果が出ていました。
2つを一緒に補った場合は結果がそろわず、ビタミンDが転倒を減らすのかもはっきりしていませんでした。
そこで研究チームは、18歳以上の大人を対象にした69の試験、あわせて15万3902人分の結果を集めて調べ直しました。
比べたのは、カルシウムだけ、ビタミンDだけ、2つを一緒に補ったグループと、にせのサプリ(プラセボ)を飲んだか何もしなかったグループです。
いちばん知りたかったのは、体のどこかの骨が折れたかどうかです。
あわせて、股関節(足の付け根の関節)の骨折、背骨の骨折、背骨以外の骨折、転んだかどうか、転んだ回数も調べています。
結果は、どの補い方でもほぼ同じでした。
サプリを補ったグループで骨折が減る効果は、ほとんど、あるいはまったく見られなかったのです。
股関節の骨折や転倒など、ほかの項目でも効果はほとんどないように見えました。
気をつけたいのは集めた試験の87%が地域で暮らす人たちを、73%が骨折や転倒の危険が特に高くない人たちを対象にしていたことです。
では研究チームは、たくさんの試験をどうやってまとめ、「ほとんど効果がない」と判断したのでしょうか?
くじ引きで分けた試験を集め、「意味のある差」かどうかで判定した
集められたのは、ランダム化比較試験と呼ばれる試験だけです。
これは参加者をくじ引きでグループを分け、サプリを補う人と補わない人を比べるやり方です。
グループ分けを偶然にまかせることで、サプリ以外の事情が結果に混ざりにくくなります。
そのため、治療が本当に効くかを確かめる方法の中でも、特に強いものの1つとされています。
研究チームは2人1組で、それぞれ別々に試験を選び、データを取り出しました。
意見が分かれたときは、話し合って決めています。
試験ごとのやり方にかたより(バイアス)がないかも、決まった道具を使って点検しました。
試験の質にはばらつきがありましたが、それぞれの結果がどれくらい確かなのかも、決まった方法で「高い」「中くらい」などと評価しています。
そのうえで、メタ分析(たくさんの試験の結果をまとめて計算し直す方法)を行いました。
ここで出てくるのが「リスク比」で、サプリを補ったグループで骨折した人の割合を、補わなかったグループと比べた数字です。
1.00なら差がなく、1より小さいほどサプリのグループで骨折が少なかったことを表します。
ビタミンDだけの場合は36試験・9万2045人分で、リスク比はちょうど1.00、結果の確かさは「高い」でした。
カルシウムだけの場合は11試験・9067人分で0.91、確かさは「中くらい」です。
2つを一緒に補った場合は15試験・5万1126人分で0.91、確かさは「高い」とされました。
0.91と聞くと、少しは骨折が減っているように感じるかもしれません。
そこで大事になるのが、研究チームが決めていた「意味のある差」の線です。
チームは割合どうしを比べるだけでなく、実際に骨折する人がどれだけ減るかに目を向け、医療として意味があるといえる大きさの線を引いていました。
その線に照らすと、3つの補い方のどれも「ほとんど、あるいはまったく効果がない」という判断になったのです。
さらにチームは、年齢や性別、骨折や転倒をしたことがあるかどうか、ふだんの食事からとるカルシウムの量、ビタミンDの量や与え方などで参加者や試験を分け、計算をくり返しました。
それでも結果はおおむね変わらず、この一貫した結果が結論への信頼を強めています。
この結果は、誰にでも当てはまるの?
研究チームは結果をもとに、骨折と転倒を防ぐためにカルシウムやビタミンDを決まりごとのように補うことは、証拠からは支持されないと述べています。
ここでの話は、あくまで「骨折と転倒を防ぐ」という目的にかぎったものです。
そして、この結論がすべての人に当てはまるとは限りません。
研究チームは、特定の骨の病気がある人や、骨粗しょう症の薬を使っている人は必要なものが違う可能性があるとして、この結果をそのまま自分に当てはめないよう注意をうながしています。
骨折の危険が高い人や介護施設で暮らす人については、カルシウムだけの場合や2つを一緒に補った場合の、多くの項目で証拠が足りていません。
チームが「危険度が高い」と考えたのは、平均年齢が80歳以上、介護施設で暮らしている、骨折や転倒をしたことがある、骨粗しょう症と診断されている、ビタミンDがかなり不足している、といった人たちです。
分析の一部は試験や参加者の数が比較的少なく、慎重に読む必要があるとも書かれています。
それでも、骨折や転倒の危険が特に高くない多くの大人にとって、骨のためのサプリに骨折や転倒を防ぐ効果はほとんど見られなかった、というのが今回の答えです。
「骨の材料なのだから、補えば骨は守られるはず」という考えは、とても分かりやすいものです。
けれども、たくさんの試験を集めて確かめてみると、毎日のサプリはその期待どおりには働いていなかったのかもしれません。
参考文献
Millions take calcium and vitamin D for bone health. A major review finds little benefit (ScienceDaily)
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/09/260920030147.htm
元論文
Calcium, vitamin D, or combined supplementation to prevent fractures and falls: systematic review and meta-analysis
https://doi.org/10.1136/bmj-2025-088050
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部