食事でも運動でもなかった──寿命と結びつく生活習慣、1位は喫煙、2位は「睡眠不足」
アメリカのオレゴン健康科学大学(OHSU)で行われた研究によって、食事や運動より睡眠不足が平均寿命に大きく関係していることが明らかになりました。
また研究では睡眠不足が平均寿命に与えるネガティブな強さが、喫煙の半分ほどに達していたことが示されています。
睡眠不足は、単なる「翌日の眠さ」だけでは片づけられない指標として浮かび上がったのです。
研究を率いたアンドリュー・マクヒル氏も「睡眠不足が寿命とこれほど強く相関しているとは、予想していませんでした」と述べています。
研究内容の詳細は『SLEEP Advances』にて発表されました。
目次
- 長生きの秘訣は「食事と運動」が第一ではないのか?
- 睡眠不足は「食事や運動」よりも強く寿命にかかわっていた
- 睡眠不足で削っていたのは寿命だった
長生きの秘訣は「食事と運動」が第一ではないのか?
仕事や家事が立て込んだ日、真っ先に削られるのは睡眠時間です。
平日に足りなかった分は、週末にまとめて寝て取り返せばいいと考えて、夜ふかしを重ねている人も少なくないでしょう。
長生きの秘訣と聞いて思い浮かぶのも、たいていはタバコをやめること、食事に気をつけること、体を動かすことです。
実際、喫煙や運動不足は、死亡リスクを下げるための対策の的とされてきました。
一方で、睡眠は大事だと分かっていても、食事や運動ほど重要視されることはありませんでした。
たとえば健康について話すときも、食事や運動に気をつかっていると言う人々が話題をリードし、さらには糖質や筋トレの話で盛り上がることもあるでしょう。
そこで「私はよく寝ています」と言うのは、なんとなく気が引けます。
たとえ勇気を出して断言しても、返ってくるのはよくても苦笑いやツッコミとなるはずです。
日常の一場面を切り取っても「よく寝る」という健康法が軽視されていることがわかるでしょう。
しかし、睡眠が足りない人は心臓や血管、代謝の病気にかかりやすく、死亡のリスクも高いことが、これまでの研究でくり返し示されてきました。
それなら、寝不足の人が多い地域では、実際に人々の寿命も短くなっているのでしょうか?
短くなっているとしたら、それは食事や運動と比べると、どのくらいなのでしょうか?
意外にも、この問いについて、アメリカ全土を細かく分けて研究は、これまでありませんでした。
食事のバランスが1週間くずれても、運動を1カ月さぼっても、人はそう簡単にはまいりません。
けれど眠らない日が何日か続けば、人はまともに立っていられなくなります。
命をつなぐ優先順位でいえば、睡眠はもともと食事や運動より前にあり、寿命により強く関連してもおかしくはありません。
そこで今回、オレゴン健康科学大学の研究チームは、全米に約3100ある郡(州の下の単位)ごとに、睡眠と平均寿命の関係を調べることにしました。
寿命という人間ならば誰もがかかわる部分で「よく寝る」という習慣は、どれほどの力を持っていたのでしょうか?
睡眠不足は「食事や運動」よりも強く寿命にかかわっていた
平均寿命は睡眠とどれほど関連しているのか?
答えを得るため研究者たちが使ったのは、アメリカ疾病対策センター(CDC)のもとで各州の保健当局が毎月行っている調査(BRFSS)です。
調査では「24時間のうち、平均して何時間眠っていますか」と尋ね、その答えから、郡ごとに寝不足とされる「睡眠が7時間に満たない人の割合」が出されています。
研究チームは2019年から2025年までの7年間について、この割合を平均寿命と突き合わせました。
すると2025年のデータでは、調べた州のうち3つを除くすべてで、寝不足割合と平均寿命がはっきりとした右下がりの関係であることがわかりました。
それ以前の年でも同じ関係が現れ、2019年には調べた州の84%で、2024年にはすべてで確認されました。
さらに寿命に関わりそうな8つの要因を並べ、ほかの7つの条件が同じだったら、残る1つで平均寿命がどれだけ違ってくるのかを、要因ごとに割り出しました。
結果、寿命といちばん強く結びついていたのはタバコでしたが、睡眠不足のネガティブな強さはタバコの半分ほどに達しており、食事や運動不足をも上回っていることがわかりました。
ただ、寝不足の人は肥満や糖尿病にもなりやすいことが知られています。
だとすると、さきほどの順位は、肥満や糖尿病の分まで睡眠の手柄として数えているだけかもしれません。
そこで研究チームは、肥満と糖尿病も要因のリストに加えて、同じ計算をやり直しました。
寝不足が寿命を縮める過程において、肥満や糖尿病を通る分は、まるごとそちらの責任にしてしまう計算です。
しかしそれでも睡眠不足と平均寿命との結びつきは半分ほどが残っており、運動不足や食事よりは強いままでした。
睡眠不足で削っていたのは寿命だった
では、睡眠はなぜ、ここまで寿命と結びつくのでしょうか。
マクヒル氏は、睡眠が心臓や血管の健康、病気から体を守る免疫の働き、そして脳の働きに影響することを挙げています。
また「私たちはときに、睡眠を脇に置いて、あとで、あるいは週末に回せばいいものだと考えてしまいます」と話し、食事や運動と少なくとも同じくらい睡眠を優先すべきだとも訴えています。
もっとも、今回の研究は統計的な分析が主であり、睡眠時間を増やしたときにどのように寿命が変化するかまでは不明です。
それでも研究チームは、本当の結びつきは今回の結果よりさらに強いだろうと見ています。
今回のデータでは、長時間眠る「寝すぎ」の人まで、睡眠が足りている側に数えられているからです。
寝すぎもまた、体によくないことが知られています。
こうした人を「足りている」側から外せば、関係はいっそう強まるだろうというわけです。
郡ごとに結果が出たことで、手を打つべき場所も見えてきました。
研究チームは、寝不足の人が多い郡を中心に睡眠を改善する取り組みを届ければ、国全体の健康の底上げにつながると考えています。
しかもこの問題は、収入の高低や医療の受けやすさ、都会か田舎かを問わず、あらゆる地域に及んでいるといいます。
マクヒル氏が勧める目安は、1晩7〜9時間ほどです。
「よく眠れば、気分がよくなるだけでなく、長生きにもつながるのです」
参考文献
One Critical Factor Predicts Longevity Better Than Diet or Exercise, Study Reveals
https://www.sciencealert.com/one-critical-factor-predicts-longevity-better-than-diet-or-exercise-study-reveals
元論文
Sleep insufficiency and life expectancy at the state-county level in the United States, 2019–2025
https://doi.org/10.1093/sleepadvances/zpaf090
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部