Tレックスは哺乳類並みの体温36.3℃だった――歯の化学分析で判明
博物館でTレックスの骨格を見上げると、この大きな体はさわったら温かかったのかなと考えてしまいます。
アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロバート・イーグル氏らの研究チームが、Tレックス(ティラノサウルス・レックス)の歯を化学的に調べました。
その結果、体温はおよそ36.3℃と見積もられました。
今のインドゾウやアフリカゾウとほぼ同じ体温です。
同じ時代の同じ場所にいたワニの仲間は、Tレックスよりはっきり低い温度でした。
研究チームは、Tレックスがまわりの環境より高い体温を保っていたと考えています。
ただし、調べたTレックスの歯は3本だけで、数字にはプラスマイナスの幅があります。
研究内容の詳細は2026年9月16日に『Science Advances』にて発表されました。
目次
- Tレックスの体温はゾウと同じくらいだった
- 化石の歯を「温度計」にする方法
- まわりより温かい体なら、寒い土地にも行けた
- では、恐竜はみんな温かい体だったの?
Tレックスの体温はゾウと同じくらいだった
恐竜の体は、トカゲやワニのように外の温度しだいだったのでしょうか。
それとも、私たちのように自分で体を温めていたのでしょうか。
Tレックスは、恐竜の中でもとくによく調べられてきた種類です。
化石が比較的よく見つかっていて、ほかの研究でもお手本のように名前が挙がる恐竜なのです。
動くのにかかるエネルギーや育つ速さ、住んでいた場所の広がりなどから、Tレックスが体の中で熱を作る動物だったと思わせる手がかりは、これまでもありました。
それでも、体温が「何度くらい」だったのかを自信をもって言える見積もりはありませんでした。
今回の研究チームが調べたのは、アメリカ・モンタナ州の「ヘルクリーク層」(白亜紀後期の地層)から見つかったTレックスの歯3本です。
3本のうち2本は同じ標本から、もう1本は別の標本から取ったものでした。
1本ずつの温度は、37.3℃、35.9℃、34.7℃でした。
3本をまとめると、平均はおよそ36.3℃になります。
この数字には「プラスマイナス2.5℃」ほどの見積もりの幅があり、ぴったり36.3℃だったという意味ではありません。
それでもこの値は、インドゾウ(36℃)やアフリカゾウ(36.2℃)といった今の大きな哺乳類とほぼ同じです。
イーグル氏は「Tレックスは36℃で、人間とだいたい同じだった」と話しています。
研究チームは、Tレックスと同じ時代に同じ場所でくらしていたワニの仲間の歯も調べました。
こちらの平均は約30.9℃で、Tレックスよりはっきり低い結果になりました。
この低めの温度は、日光を浴びて体を温める今のワニのくらし方とつじつまが合います。
ただ、ここで1つ大きな疑問がわいてきます。
化石になった歯から、どうやって生きていたころの体温が分かるのでしょうか?
化石の歯を「温度計」にする方法
使われたのは「クランプト同位体温度計」(重さのちがう原子=同位体どうしのくっつき方から温度を読み取る方法)と呼ばれる方法です。
材料にするのは、歯の表面にあるエナメル質です。
エナメル質の中では、炭素と酸素の原子がつながっています。
そのつながり方のパターンを細かく測ると、エナメル質の鉱物ができたときの温度が分かるのです。
研究チームは、こうして出した温度をTレックスの体温として読み取りました。
イーグル氏は「これまで誰も、こんなふうに温度を測ることはできなかった」と話しています。
とはいえ、化石は長いあいだ土の中に埋まっていたものです。
もし埋まったあとに中身が変わっていたら、測った値は生きていたころの体温を映していないことになります。
そこで研究チームは、歯が元のままかどうかを、いくつもの別々のやり方で確かめました。
まず、エナメル質は骨などにくらべて、とても長い年月がたっても元の成分を残しやすいことが知られています。
次に、同じ地層の化石があとから変わったのなら、どれも同じように変わっているはずです。
ところがTレックスとワニの歯では温度がはっきり分かれていて、まとめて上書きされたとは考えにくい結果でした。
しかもこの差は、今の大きな哺乳類とワニを同じ方法で測ったときの差ともつじつまが合っていました。
同じ歯のエナメル質と内側の象牙質をくらべると、中身の組み合わせがはっきりちがっていました。
これは、結晶の細かい象牙質が変わってしまっていても、エナメル質まで変わっているとは限らない、という見方と合う結果です。
赤外線を使って成分を調べる分析でも、化石の歯は今のアリゲーター(ワニの仲間)の歯に近く、以前に報告された、化学的に変わってしまった試料とはちがっていました。
エナメル質にふくまれる炭酸塩の量も今の爬虫類のエナメル質とよく合っていて、外から余計なものが入った様子はありませんでした。
気になる点が1つだけあります。
酸素を使った別のチェックで、ワニの歯2本が、よく残った試料の目安より高い値を示したのです。
ただ、このチェックは食べ物や季節、体温などの影響がよく分かっておらず、当てになるのか疑問も出ている方法です。
そのため研究チームは、これをワニの歯が変わってしまった確かな証拠とはみていません。
全体として研究チームは、埋まったあとに歯が変わったはっきりした証拠は見つからなかった、としています。
まわりより温かい体なら、寒い土地にも行けた
体温が36℃くらいでも、まわりの気温も同じくらいなら、自分で体を温めていた証拠にはなりません。
そこで研究チームは、当時のヘルクリークの気温とくらべました。
1つ目の手がかりは、同じ地域の地層から見つかった二枚貝(イシガイの仲間)です。
同じ温度計の方法を使った別の研究では、当時のおよそ30万年分の温度が22.6〜30.5℃、平均で約25.9℃と出ています。
今の同じ仲間の貝ではこの値が夏の気温と合うので、これは暖かい季節の温度だと考えられています。
Tレックスの体温は、この貝から出た温度よりはっきり高いという結果でした。
2つ目の手がかりは、コンピューターで当時の気候を再現したシミュレーションです。
空気中の二酸化炭素を産業革命前の3倍にすると、ヘルクリークあたりの暖かい月の気温は24.9〜29.5℃、1年の平均は17.8℃になりました。
6倍にした場合は、夏の暖かい月で27.7〜33.4℃、1年の平均は20.7℃でした。
こうした比較から研究チームは、Tレックスがまわりの環境より高い体温を保っていたと結論づけています。
自分の体で熱を作り、体温を整える動物を「内温動物」と呼びます。
今回の36.3℃は、今の内温動物とくらべられる値です。
イーグル氏は、この温度は「爬虫類やナマケモノのようなゆっくりした哺乳類より高く、鳥よりは低い」もので、だいたい予想どおりだったと話しています。
さらにこの結果は、ティラノサウルスの仲間が活発に動き回る動物で、エネルギーを速いペースで使う体をまかなうために獲物を追ったり死がいをあさったりしていた、という考えを支えるものだと見ています。
体温が分かると、Tレックスがどこでくらせたのかも見えてきます。
研究チームは当時の北アメリカ大陸の気候シミュレーションを使い、この体温のTレックスがすめそうな場所を割り出しました。
すると、寒い北の地域もふくめて、北アメリカ大陸の大部分にTレックスが行けた可能性があるという結果になりました。
これは、ずっと北のアラスカ北部「ノーススロープ」でもティラノサウルスの仲間の化石が見つかっていることと合います。
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの古生物学者アレッサンドロ・キアレンツァ氏は「白亜紀のうだるような暑さの中でも、アラスカの冬は体の冷たい恐竜には寒すぎただろう」と話しています。
では、恐竜はみんな温かい体だったの?
今回の結果は、少なくとも一部の恐竜、とくにTレックスをふくむ大型の獣脚類(肉食恐竜のグループ)が、自分で熱を作って体温を整えていたという証拠の1つに加わります。
イーグル氏は、この結果から、体のとても温かい今の鳥へとつながる恐竜が、体の冷たい恐竜とどれほどかけ離れていたかも分かる、と話しています。
ただし、これで「恐竜はみんな温かい体だった」と言えるわけではありません。
今回調べたのは、Tレックスの歯3本と、同じ場所のワニの仲間の歯です。
Tレックスの3本は2つの標本から取ったもので、1本ずつの温度には数℃のずれもあります。
すめる場所の広がりも、あくまで「行けた可能性がある」という計算の結果です。
それでも、動き方や育つ速さ、すんでいた場所などから温かい体がうかがえながらも、自信をもって言える体温の見積もりが足りなかったTレックスに、歯の分析から「約36.3℃」という見積もりが加わりました。
参考文献
Tyrannosaurus rex Had Mammal-Like Body Temperature, Study Finds (Sci.News)
https://www.sci.news/paleontology/tyrannosaurus-rex-body-temperature-15077.html
元論文
The body temperature of Tyrannosaurus rex
https://doi.org/10.1126/sciadv.aeb7653
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部