「音だけで小さな球が宙に浮く」、40cm離れても障害物の向こうでも支える超音波に成功
音の力だけで物を触らずに宙に浮かせる技術を、音響浮遊といいます。
筑波大学の研究チームは、片側から超音波を当てるだけで、音源から約40cm離れた空中に小さな球を浮かせました。
支えているのは、音だけ。
届く距離は従来の約6倍で、浮かせた球を空中で立体的に動かすこともできています。
複数の物体や丸くない物体、さらには障害物の向こう側でも浮かせられたといいます。
この浮かせ方を空中で実際に示したのは、今回が初めてです。
研究内容の詳細は2026年7月17日に『Physical Review Letters』にて発表されました
目次
- 「片側から当てるだけ」で、40cm先に浮かべる
- なぜ「強い芯」なら遠くまで支えられるのか
「片側から当てるだけ」で、40cm先に浮かべる
物に触れないので、壊れやすい試料や汚したくない試料、危ない材料を扱うのに向いています。
ただ、これまでの主流は、向かい合う音源や反射板の間に物を挟み込む方式でした。
そのため、装置に囲まれた空間の中でしか物を扱えませんでした。
囲いのいらない、片側から音を当てる方式もあります。
ところがこちらは、音源のすぐそばでしか物を支えられませんでした。
筑波大学の研究チームは、この片側方式で、音源から約40cm離れた空中に球を浮かせました。
届く距離は、従来の約6倍にあたります。
浮かせたのは、発泡スチロール(発泡ポリスチレン)でできた直径1.5mmの球。
音源から離れた空中で、小さな球がじっと浮かぶ。
そのまま、空中で立体的に動かすこともできました。
球1つだけではありません。複数の物体も、丸くない物体も浮かせられました。
途中に障害物があっても、その先で浮かせられたそうです。
このような浮かせ方は理論で予測されていましたが、空中で実際に示したのは今回が初めてです。
音源の近くでしか支えられなかった片側方式が、なぜ急に遠くまで届いたのでしょうか。
先に言ってしまうと鍵は、物を捕まえる場所を、音の「静かな点」から「強い芯」に変えたことです。
ただ、それでなぜ遠くまで届くのかは、少し説明が要ります。
なぜ「強い芯」なら遠くまで支えられるのか
従来の方式は、どれも音の「静かな点」に物を捕まえていました。
音がほとんど無い点を、強い音でぐるりと囲うのです。
お椀の底にビー玉を置いたところを思い浮かべてください。
転がろうとしても、まわりの壁に押し戻されて真ん中にとどまります。
静かな点がお椀の底、囲む強い音が壁。
従来の音響浮遊は、この形で物を支えてきました。
ところが片側から当てるだけだと、音源から遠ざかるほど支える力が弱まります。
しまいには、物を押し出す向きに変わってしまうのです。
研究チームが変えたのは、この捕まえる場所です。
使ったのは、ゼロ次ベッセルビームと呼ばれる音の束です。中心の細い芯に強い音を集めたまま、遠くまで伝わります。
物を捕まえるのは、静かな点ではなく、この強い芯の中。
こうして、片側から当てるだけで、音源から離れた先の物も支えられるようになりました。
従来のように両側からはさまずとも片側からの超音波だけで、離れた物を触れずに扱えます。
研究チームは、実験の自動化や立体ディスプレイへの応用を挙げています。
この研究で言えるのは、片側からの超音波だけで、音源から離れた軽い小物体を浮かせて運べるということです。
一方、示されたのは発泡スチロールの球のような、軽くて小さな物体の場合です。
重い物や大きな物まで同じように運べるかは、ここからは読み取れません。
音で物を浮かせる研究は、これまで主に、音源と反射板で挟む型の装置で進められてきました。
音で物を浮かせられる場所が、装置のすき間から、開けた空中へ広がりました。
手品師の「糸なんてありません」も、そのうち「超音波もありません」まで言わされそうです。
参考文献
物体に超音波ビームを従来の6倍の距離から照射し浮遊させることに成功 (筑波大学 TSUKUBA JOURNAL)
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20260826140000.html
Numerical and experimental investigation of the stability of a drop in a single-axis acoustic levitator (Physics of Fluids, 2019)
https://doi.org/10.1063/1.5121728
元論文
Midair Single-Sided Acoustic Levitation in High-Pressure Regions of Zero-Order Bessel Beams
https://doi.org/10.1103/pfkh-4x7j
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部