「よくまばたきする子」ほど頭の切り替えが上手な傾向、幼児のカード分け課題と脳の活動で判明
絵本を読んでもらっている子の顔を見ていると、まばたきの多い子と少ない子がいることに気づきます。
ただの癖のように見えるこの回数が、子どもの「頭の切り替えのうまさ」と結びついているかもしれません。
京都大学と筑波大学の研究チームが数えたのは、2〜6歳の幼児113人の、課題中のまばたきの回数。
すると、まばたきの多い子ほど、色で分けていたカードを形で分け直す「ルールの切り替え」が上手でした。
脳の前頭前野のうち、この課題に大事な右側の一部の活動も、まばたきの多い子ほど高い傾向でした。
ただし分かったのは関連であって、まばたきを増やせば切り替えが上手になる、という話ではありません。
研究内容の詳細は2026年9月15日に『Communications Psychology』にて発表されました
目次
- まばたきの多い子ほど「カードの分け直し」が上手だった
- まばたきはなぜ「頭の切り替え」と結びつくのか
まばたきの多い子ほど「カードの分け直し」が上手だった
調べたのは、大阪と京都の2つの保育施設に通う2〜6歳の子どもたちです。
最終的に解析に入ったのは113人。
子どもの脳の研究は人数が少なくなりがちなので、チームは必要な人数を先に計算してから集めました。
子どもたちがやったのは、カードを仲間分けする遊びのような課題です。
カードには「色」と「形」の2つの手がかりがあります。
最初は色で分ける。次は形で分ける。
最後は、色と形のルールが途中で何度も入れかわるので、そのたびに頭を切り替えなくてはいけません。
研究チームが見たのは、ルールが変わった直後のカードを正しく分けられたかどうかでした。
「先生が手を上げたら座る」という遊びが、途中で「手を上げたら立つ」に変わる場面を思い浮かべてください。
前のルールがつい体に残って、間違えて座ってしまう子が出ます。
カードの分け直しで試されたのは、この「前のルールを手放す力」です。
この力は、実行機能(考えや行動を場面に合わせて切り替えたり抑えたりする力)の1つです。
課題の間、子どもは頭に、光のセンサーが付いた帽子をかぶりました。
これはfNIRS(エフニルス。近赤外の光で脳の血流の変化を読む方法)という装置です。
額に当てた光で見えるのは、前頭前野と呼ばれる脳の前側の働きです。
子どもが動いてしまった場面は、ビデオと照らし合わせて外しました。
まばたきの回数も、同じビデオから数えました。
見えてきたのは、こんな傾向です。
まばたきの多い子ほど、ルールが変わった直後のカードを正しく分けられていました。
脳の側でも、まばたきの多い子ほど前頭前野の右の背外側部(右側の、上のほうで外寄りの部分)の活動が高い傾向でした。
この場所は、カードの分け直しをこなすのに大事だとされている部分です。
一方、前頭前野の広い範囲の活動とまばたきの間には、関連は見られませんでした。
また、年齢が上の子ほど成績がよく、活動もこの右の場所に寄っていました。
ただし、まばたきと成績は課題の間に同時に測ったものなので、どちらが原因かは分かりません。
気になるのは、ここからです。
なぜ、目のまばたきと、頭の中の切り替えがつながるのでしょうか。
まばたきはなぜ「頭の切り替え」と結びつくのか
手がかりの1つは、脳の働き方を調節する物質ドーパミンです。
まばたきの回数は、ドーパミンなどが作る脳の調子に左右される可能性が、以前から注目されてきました。
大人では、頭の切り替えを支える脳の回路も、ドーパミンなどの調節を受けています。
まばたきと切り替えの両方が、同じ物質の影響を受けているのかもしれません。
次の手がかりは、まばたきの増え方。
生まれて間もない赤ちゃんは、まばたきがごくわずかしかありません。
それが小学校に入る前までに数倍に増え、同時に子どもごとの差も大きくなります。
実行機能がぐんと育つ時期と、ちょうど重なります。
研究チームは、この2つの重なりに目を付けた。
年齢が上の子ほど活動が前頭前野の右の背外側部に寄る、という傾向を思い出してください。
研究チームはこれを、脳が育つ中で「必要な場所が選ばれて働くようになる」過程と見ています。
まばたきの増え方は、その過程と結びついている可能性があります。
では、この関連は何の役に立つのでしょうか。
幼い子どもは、じっとしている必要がある計測や、体に負担のある計測が難しい相手です。
そのため、実行機能を支える脳の育ちを捉える手立てが、ほとんどありませんでした。
まばたきなら、特別な機械がなくても目で見ておおよそ数えられます。
保育園や家庭で、子どもの実行機能の育ちを見る手がかりの1つになると、研究チームは期待しています。
森口佑介教授は「今後、瞬きが、子どもの実行機能の育ちを知る手がかりとして活用できる可能性があります」と話します。
この研究で言えるのは、まばたきの多さと、切り替えの成績や右の背外側部の活動との間に関連があることです。
言えないのは、まばたきが切り替えの力を生む、という原因と結果の向きです。
研究チーム自身も、まばたきを実行機能の育ちを示す「候補」の指標と位置づけています。
対象は日本の2つの保育施設の子どもで、家庭の経済状況などは集めていません。
ただの癖に見えていたまばたきが、子どもの頭の育ちをのぞく手がかりになるかもしれません。
宿題から遊びへの切り替えだけが早いのは、まばたきのせいではなく、たぶん別の理由です。
参考文献
瞬きが幼児の実行機能とその脳機構の発達を映し出す(京都大学 研究ニュース)
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-09-16-0
Neural substrates of early executive function development (Developmental Review)
https://doi.org/10.1016/j.dr.2019.100866
Relationship between cool and hot executive function in young children: A near-infrared spectroscopy study (Developmental Science)
https://doi.org/10.1111/desc.13165
元論文
Emergent blink rate in early childhood is associated with neural origins of executive function
https://doi.org/10.1038/s44271-026-00524-6
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、絵や図を1枚はさむ。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部