心不全、肝硬変、関節リウマチ――爪の根元の「赤い半月」に集まった70年分の報告
爪の根元にある、白い半月は意外な病気と繋がっているかもしれません。
米ラトガース・ニュージャージー医科大学(Rutgers NJMS)の研究者らは今回、1950年代から2025年までおよそ70年にわたり報告された爪の根元にある、白い半月が赤くなる赤い爪半月(そうはんげつ)の症例を集め、どんな病気と一緒に現れるのかを1本の論文に整理しました。
著者らは、全身の病気を背景に持つ赤い半月は、両手の複数の爪に左右対称に現れることが多く、親指でもっとも目立つと述べています。
では、なぜ体の奥の異変が、よりによって爪の付け根に現れるのでしょうか。
論文は2026年7月29日、医学誌『The American Journal of the Medical Sciences』にオンライン公開されました。
目次
- 白い半月は、爪をつくる現場
- なぜ指先に、体の異変が映るのか
白い半月は、爪をつくる現場
爪の根元の半月形の部分は「爪半月(そうはんげつ)」と呼ばれます。
爪をつくる細胞が生まれる「爪母(そうぼ)」のうち、外から見えている部分です。
ここで生まれた細胞が前へ押し出され、硬くなって爪になります。
この部分そのものは、よく見るとうっすらとピンク色を帯びています。
それでも白く見えるのは、周りの爪や皮膚のほうがもっと赤いからです。
対比によって、半月だけが白く浮かび上がっているわけです。
この白いはずの部分が、一部または全体にわたって赤みを帯びるのが「赤い爪半月」です。
この現象を最初にまとめたのは、ロンドンのセント・バーソロミュー病院の医師リチャード・テリーです。
1954年、彼は心不全の患者に現れる赤い半月について報告を発表しました。
赤い爪半月が見られた患者23人を調べたところ、14人、61%が心不全と診断されていました。
残りの患者にも、肺気腫や慢性気管支炎、赤血球が増えすぎる病気(真性多血症)、栄養失調、肝硬変、リンパ腫、骨髄性白血病といった病気がありました。
一方で、見たところ健康な若い女性150人の爪に赤い半月は見当たりませんでした。
その後、「赤い爪半月」と関連するとされる病名は広がっていきました。
1950年代から2025年までの報告には、心臓と肝臓では心不全と肝硬変、血液ではリンパ腫、皮膚では円形脱毛症と乾癬が並び、さらに関節リウマチ、免疫が自分の体を攻撃してしまう病気(全身性エリテマトーデス)、皮膚と筋肉に炎症が起きる病気(皮膚筋炎)が続き、病気とは別の原因として一酸化炭素中毒も挙がっています。
さらに赤い半月は、全身の病気を抱えた人の爪で実際に確認されています。
2014年の研究では、免疫の異常で全身の組織に炎症が起きる病気(結合組織病)の患者39人が調べられ、69%の患者に爪や爪の周囲の変化が見られ、全身性エリテマトーデスの患者14人のうち1人には、赤い爪半月がありました。
1999年のループス(全身性または皮膚型のエリテマトーデス)の研究では、患者56人を調べたところおよそ5人に1人にあたる11人に赤い爪半月があり、しかも11人のうち10人は、両手10本の指すべてに出ていました。
著者らは、この赤い半月を全身性エリテマトーデスの初期の徴候ととらえる見方も紹介しています。
しかし、赤い爪半月があるからといって、必ず全身の病気があるわけではありません。
代わりに著者らが診察で重視しているのは、「何本の爪に、どの範囲で赤みがあるか」です。
全身の病気に伴う例では、両手の複数の爪に左右対称に現れ、親指で目立つことが多いと説明しています。
一方、赤みが1本の爪だけに見える場合は、その爪の下の腫瘍や出血、爪の下の皮膚の感染など、その指に限った異常を考えます。
赤みが爪全体に及んでいたり、半月の境界を越えて広がっていたりする場合も同じで、そうしたときには赤い爪半月という診断は下さないほうがよいと著者らは述べています。
同じ赤でも、指そのものの問題と、体全体の症状が現れた場合は分けて考えるというわけです。
そのうえで著者らは、本当に赤い爪半月だと判断された患者には、全身を診る医学的な診察が行われるべきだとされています。
なぜ指先に、体の異変が映るのか
手がかりとして挙げられているのは、爪の下の細い血管です。
著者らは、白いはずの半月が赤く見えるのは、たいていの場合、その下を走る毛細血管が広がり、流れ込む血液が増えるためだと述べています。
さらに、血管の上を覆う組織が薄く、光を通しやすい状態であれば、血液の赤さはいっそう透けて見えやすくなると説明しています。
顕微鏡で確かめた報告もあります。
2013年の症例報告では、赤い爪半月のある成人男性の組織を調べたところ、爪をつくる層の浅いところに、軽く広がった血管がふだんより高い密度で集まっていました。
広がっただけでなく、血管の数そのものが増えていたのです。
著者らは、全身をめぐる何らかの因子か、その場所に限られた因子が、爪の組織に新しい血管を作らせているのではないかと考えました。
体のどこかで進んでいる病気が、めぐってきた因子を介して指先の組織を変えていると考えれば、遠い臓器と爪の色が一本の線でつながります。
ただし、さまざまな病気と赤い爪半月を結ぶ詳しい仕組みまでは不明です。
また今回のレビューは過去に報告された症例を集めたものであり、「赤い爪半月」のある人のうちどれだけが病気を抱えているかという頻度や、その的中率を測った研究ではありません。
それでも、今回の研究は赤い半月を見つけた医師が何を確かめ、思い浮かべるべき病気の候補を、70年分の報告から一覧にまとめたという点において重要です。
この知識があれば、爪の赤い半月は医師の視線を指先から体全体へ動かす合図になり得るからです。
元論文
Red lunula: A reflection of systemic disease
https://doi.org/10.1016/j.amjms.2026.07.008
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部