植物は光のほうを向く。そう習ってきたし、窓辺の鉢もそうしている。


ほとんどの植物は葉緑素という緑の色素を持ち、光のエネルギーを取り込んで自分の食べ物を作ります。


タイの森の暗い林床で見つかった小さな花は、その決まりごとから外れていました。


チュラロンコン大学とソンクラー大学の研究チームが、タイ西部で採った植物を新種として記載しました。


標本を採ったのは2025年5月、トンパープーム国立公園の標高930〜970mの林床です。


学名はThismia daemona、「悪魔の花」という呼び名も付きました。


Thismia属は妖精のランタンとも呼ばれ、いまおよそ120種が知られています。


この植物には葉緑素がなく、日光をエネルギーに使うことも、光合成で食べ物を作ることもできません。


代わりに、土の中で暮らす菌から炭素や栄養を受け取っています。


こうした生き方は、菌従属栄養(きんじゅうぞくえいよう、菌から養分をもらう暮らし)と呼ばれます。


ナゾロジーでは以前、光合成をしない植物や、菌や他の植物から栄養をとる仲間を紹介しました(光合成だけじゃない!菌類から栄養をとる寄生植物「コケイラン」「キノコそっくりの植物」は光合成しないのに葉緑体は忙しかった宿主の細胞を自分の肉体に変えてしまう驚きの寄生植物「バラノフ)。


暗い林床でも生きられるのはそのためで、ふだんは落ち葉の下に隠れ、花と実をつけるときだけ地上に姿を見せます。


では、どんな姿をしているのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年8月17日に『PhytoKeys』にて発表されました




目次



  • 黒い花に3本の角、DNAの5領域で新種と確かめた
  • 見つかった集団は1つ、株の数は50に満たない

Two T. daemona plants in Thong Pha Phum National Park, western Thailand. ( Neeranuch Taosiri/CC BY 4.0) / Credit: ScienceAlert

黒い花に3本の角、DNAの5領域で新種と確かめた


黒い花に3本の角、DNAの5領域で新種と確かめた / Credit: ScienceAlert

花を含めた高さは、最大で12.5センチほど。


根はうぶ毛の生えた淡い茶色で、サンゴのかけらのように枝分かれしています。


花はほとんど黒く、赤橙色の肉厚な部分と、半透明の青い雄しべを持ちます。


ドーム状の構造の上には、細い角のような突起が3本のびています。


名前は、隠れて地下で暮らす神秘的な生き方と、悪魔のような本質を表したものだと、ソンクラー大学の植物学者サフット・チャンタナオラピント氏は説明しています。


新種かどうかを確かめるために使ったのは、顕微鏡と高解像度の写真。


あわせて核とミトコンドリアのDNAを5つの領域にわたって読み、ほかのThismiaと比べました。


形の比較には、生きた標本とアルコール漬けの標本の両方を使っています。


系統樹は、ベイズ法と最尤法という2つのやり方で作っても、同じ形になりました。


もっとも近い親戚とみられるのは、ボルネオで見つかっているThismia betung-kerihunensisです。


この花が出てきた場所には、研究者を驚かせる点がありました。


見つかった集団は1つ、株の数は50に満たない


見つかった集団は1つ、株の数は50に満たない / 写真は同じ属の別種 Thismia thaithongiana。Credit: Apichart Songsangchun / Wikimedia Commons (CC BY 4.0)

Thismiaの仲間は、低い標高の、いつも湿っている熱帯雨林と結び付けて考えられてきました。


今回の場所は、海抜1000m近い季節性の山地林。


チャンタナオラピント氏は「Thismia daemonaを見つけたのは、まさに大きな驚きでした」と話しています。


この発見は、この仲間が考えられていたよりも幅広い環境に耐えられる可能性を示しています。


T. daemonaが属するGeomitraというグループは、これまでマレー半島、ボルネオ、スマトラでしか記録がありませんでした。


タイ西部で見つかったことで、このグループの知られた分布は北へ広がりました。


タイで知られるThismiaは、これで15種から16種になりました。


見つかってすぐ、心配な点も見えてきた。


確認されている集団は1か所だけで、株の数は50に満たないとされています。


場所は国立公園の中ですが、観光客が定期的に訪れます。


人が誤って踏んだり、この植物と菌が頼っている林床を乱したりする恐れがあります。


研究チームは暫定的に、国際自然保護連合の基準で絶滅危惧IA類(野生での絶滅の危険がきわめて高い区分)にあたると評価しました。


形とDNAの両方から新種と確かめられ、この仲間の知られた分布は広がりました。


ただし採れた標本は2点で、DNAを読んだのはそのうち1点です。


集団の数も株の数も、いま見つかっている範囲の話です。


絶滅危惧IA類も、正式なレッドリストへの登録ではなく、論文が示した予備的な評価です。



守られた場所で、人がよく歩く道のそばにも、まだ名前のない生き物がいる。


光のほうを向かない植物にも、ちゃんと生きる算段があったわけです。


全ての画像を見る

参考文献

Scientists Discover a Real-Life ‘Devil Flower’ That Doesn’t Need Sunlight to Survive (ScienceAlert)
https://www.sciencealert.com/scientists-discovered-a-bizarre-devil-flower-that-doesnt-need-sunlight

Phylogenetics of the mycoheterotrophic genus Thismia (Thismiaceae: Dioscoreales) with a focus on the Old World taxa (Botanical Journal of the Linnean Society)
https://doi.org/10.1093/botlinnean/boaa017

Phylogenetic and biogeographical analyses of Thismia (Thismiaceae) support T. malipoensis as the eighth species in China (Willdenowia)
https://doi.org/10.3372/wi.54.54102

File:Thismia thaithongiana.jpg (Wikimedia Commons, CC BY 4.0)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Thismia_thaithongiana.jpg

元論文

Thismia daemona (Thismiaceae), a new species from Thailand supported by morphological and molecular evidence
https://doi.org/10.3897/phytokeys.278.202868

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 日光なしで生きられる「悪魔の花」と呼ばれる植物を発見