朝、枕についた髪をそっと数えるのをやめた。そんな朝。


円形脱毛症は、免疫が自分の毛包(髪の根元の袋)を攻撃して、髪が抜けていく病気です。


世界の人口の2%ほどが、重い脱毛とその心の負担を抱えて暮らしています。


抜けるのは頭皮だけではなく、眉やまつ毛に及ぶこともあります。


既存の薬で改善しない人も多く、10代に使える薬として承認されているのはリトレシチニブの1つだけだった、と論文は述べています。


毛包そのものは壊れていないので、髪は戻りうる。難しいのは、免疫の攻撃を止めること。


国際的な研究チームは、関節炎の薬ウパダシチニブ(免疫の信号を止める飲み薬)を、重い円形脱毛症の患者で試しました。


この薬はもともと炎症や関節炎の薬で、既存の脱毛症の薬と働きが似ていることから候補になりました。


対象は頭皮の半分以上の髪を失った12〜64歳の1399人で、偽薬と比べる第3相試験(承認前の最終段階の大規模な試験)を2本(UP-AA1とUP-AA2)行っています。


24週間後、頭皮の8割以上が髪で覆われた状態に達した人は、薬を飲んだ群で約半数、偽薬の群では数%でした。


一部の人では、頭皮の髪がすべて戻っています。


「最大」で始まる見出しは、この一部の人の話。全員がそうなったわけではありません。


では、その数字はどんな試験から出てきたのでしょうか。


研究内容の詳細は2026年8月12日に『JAMA Dermatology』にて発表されました




目次



  • 偽薬と比べた2本の試験で「約半数」が回復
  • 副作用と「24週」の先、まだ見えないもの

偽薬と比べた2本の試験で「約半数」が回復


偽薬と比べた2本の試験で「約半数」が回復 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

試験の舞台は、25か国の112施設と、28か国の125施設。


参加できたのは、直近6か月に自然な回復がなく、今回の脱毛が始まってから8年未満の人です。


10代の参加者は118人。


患者は無作為に、1日1回のウパダシチニブ15mg、30mg、偽薬の3つの群に分けられました。


分ける時には、年齢、脱毛の重さ、脱毛の期間で群に偏りが出ないようにしています。


医師も患者も、誰がどれを飲んでいるか知らない二重盲検(両者に伏せる方式)の試験です。


効果の物差しは「SALTスコア」(頭皮のうち髪が抜けている面積の割合)。


参加した時点の平均は83.9、つまり頭皮の8割以上に髪がない状態でした。


主要な評価は、24週後にこの値が20以下になること。つまり、頭皮の8割以上に髪がある状態です。


達成したのは、15mgの群で45.2%と44.6%、30mgの群で55.0%と54.3%、偽薬の群で1.5%と3.4%でした(2本の試験の値)。


差は早く開いた。8週の時点で、薬の2群とも偽薬を上回っています。


髪が完全に戻った人は、薬の群で13〜22.5%。


20以下より厳しい「10以下」や、完全に戻る「0」の達成も評価されています。


眉やまつ毛の回復、患者自身が感じる変化、生活の質、不安や抑うつの尺度も評価項目に入りました。


患者の実感と生活の質は、どちらの用量でも意味のある改善を示したと研究チームは書いています。


効果の解析は、途中でやめた人も含めて、無作為化した全員で行われました。


効いた人だけを数えて出した数字ではない、ということです。


副作用と「24週」の先、まだ見えないもの


副作用と「24週」の先、まだ見えないもの / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

効く薬ほど、気になるのは体への負担。


いずれかの群で5%を超える人に出た有害事象(薬との因果を問わず起きた体の不調)は、上気道の感染、にきび、血液中の酵素(クレアチンホスホキナーゼ)の上昇、鼻咽頭炎(鼻の奥からのどにかけての炎症)でした。


重い有害事象は、15mgの群で1.6%、30mgの群で2.3%、偽薬の群で0.4%に起きています。


数えたのは、最初の服薬より後に起きたか悪化した不調です。


安全性の傾向は大人と10代で似ており、この薬の既存の適応で知られている範囲だったとしています。


報告があるのは、24週の時点までの安全性だけ。


試験には28週の延長期間があり、その結果は今回の報告に含まれていません。


もう一つの留意点は、資金の出所。


試験の資金と設計には製造元のアッヴィが関わり、著者の一部は同社の社員です。


大きな試験では珍しくなく、査読も独立して行われています。


それでも、既存の治療と直接比べる試験はこれからです。


反応は速く、深い。


研究チームはそこから、この薬が重い円形脱毛症の有力な選択肢になりうると書いています。


心の負担が大きい病気では、髪が戻ることが患者の実感の改善につながって初めて治療と呼べる、とも。



「最大」の見出しの裏にあるのは、半年で約半数、という地味で確かな数字です。


試験の名前 UP-AA に髪が上(up)に向かう願いが込められているかどうかは、論文には書かれていません。


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参考文献

Arthritis Drug Restores Up to 100% of Hair in Patients With Severe Alopecia (ScienceAlert)
https://www.sciencealert.com/arthritis-drug-restores-up-to-100-of-hair-in-patients-with-severe-alopecia

Two Phase 3 Trials of Baricitinib for Alopecia Areata (NEJM, 2022)
https://doi.org/10.1056/nejmoa2110343

元論文

Upadacitinib for Severe Alopecia Areata in Adults and Adolescents
https://doi.org/10.1001/jamadermatol.2026.2853

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 関節炎の薬で重い円形脱毛症の約半数が髪の8割以上を取り戻した、24週の試験