ツクツクボウシのオスは相手の鳴き声の直後に「合の手」を入れると判明
夏の終わりの帰り道、ツクツクボウシの声が途切れて「ジューッ」と締まる。
セミのオスが鳴くのは、メスを呼ぶため。
声の特徴は種ごとに違い、同じ一続きの鳴き声の中でも刻々と変わります。
ツクツクボウシのオスには、2種類の鳴き声があります。
1つは高潮音。「オーシンツクツク」と繰り返す、テンポのよい声です。
もう1つが合の手。「ジューッ」と長く伸びる声です。
論文の分類では、短い声を速いテンポで繰り返す型と、長い声をゆっくり出す型の2つです。
2匹のオスが近くにいると、片方の高潮音にもう片方が合の手を返す。
この現象自体は、以前から知られていました。
ただ、合の手をいつ入れるのかは分かっていなかった。
筑波大学が発表したこの研究では、オス2匹を近くに置いて鳴き声を録音し、2匹が声を出すタイミングの規則性を調べました。
結果、合の手を安定して出した個体のうち96%(23匹中22匹)が、相手が高潮音を出した直後に合の手を入れていました。
対象は実験室で録音したツクツクボウシのオスで、タイミングの解析は合の手を安定して出した23匹についてのものです。
この規則正しさは、相手の声を邪魔するためなのでしょうか。
研究内容の詳細は2025年4月15日に『Journal of Experimental Biology』にて発表されました
目次
- 「相手の声を邪魔する」仮説は、ほとんど支持されなかった
- 鳴き声の「掛け合い」は、ほとんど調べられていなかった
「相手の声を邪魔する」仮説は、ほとんど支持されなかった
研究チームはまず、仮説を1つ立てました。
相手の鳴き声を効率よく邪魔するために合の手を入れているのではないか、という考えです。
確かめ方は、比べること。
合の手を出す時刻をでたらめにした数値シミュレーションと、実際の録音とを、個体ごとに突き合わせました。
効率よく相手の高潮音に重ねていると言えたオスは、23匹中2匹(8.7%)にとどまりました。
相手の声をかき消すために合の手を入れている、という説明は、全体としては支持されなかったのです。
2匹の鳴き声のやりとりには、タイミングのほかにもう1つ見つかったことがあります。
2匹は、ときどき声の種類を入れ替えていました。
高潮音を出していた側が合の手に回り、合の手を入れていた側が高潮音を出す。
相手の声を邪魔するためでないなら、この規則正しい掛け合いは何のためなのでしょうか。
鳴き声の「掛け合い」は、ほとんど調べられていなかった
答えは、まだ出ていない。
規則的な鳴き方が繁殖の行動や縄張りの維持にどう関わるのかは、さらに検証が必要だと研究チームは述べています。
相手の声を覆い隠す効果(マスキング)があるのかも含めて、この鳴き方の役目は今後の課題です。
セミ1匹の鳴き方は多くの種で数値化されてきましたが、2匹以上の声のやりとりが調べられた種は、ごくわずかでした。
研究チームが調べたのは、この2種類の声を使い分けるオス同士の、音でのやりとりです。
今回見つかったのは、その数少ない例に加わる、新しい型の整った合唱の構造です。
夏の夕方に耳へ入る「オーシンツクツク」と「ジューッ」は、ただの騒音ではなく、決まった間合いで交わされる掛け合いでした。
相づちの上手なオスがモテるのかどうかは、まだ誰にも分かりません。
参考文献
規則的に合の手を発するツクツクボウシの鳴き方を発見(筑波大学 TSUKUBA JOURNAL)
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20250423000100.html
Difference in the responses of male cicada Meimuna opalifera to the two parts of conspecific calling song (Entomological Science, 2023)
https://doi.org/10.1111/ens.12550
元論文
Temporal structure of two call types produced by competing male cicadas
https://doi.org/10.1242/jeb.249399
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部