ヘビの尾にある「クモ」はすべて皮膚でできていた
岩の上をクモが走る。近づいた鳥が最後に見るのは、その下で口を開けたヘビです。
イランに住むクモの尾を持つクサリヘビ(Pseudocerastes urarachnoides)は、尾の先にクモそっくりの飾りを持つ、科学が知る唯一の動物です。
じっと岩に紛れ、尾だけを小刻みに揺らして鳥をおびき寄せます。
ルーアン氏は、動く尾を見ると本物のクモでないとは信じがたいと言うほどです。
ポーランド科学アカデミーとフィールド博物館の研究チームは、この「クモ」の中に骨は一本もなく、形を変えた鱗だけでできていると発表しました。
調べたのは1968年に採集され、この種の基準になっている標本1体で、マイクロCT(X線で内部を撮る装置)を使いました。
骨の代わりにあったのは、極端に作り替えられた鱗でした。
発見から半世紀、この飾りの中身はきちんと調べられていませんでした。
骨のないクモは、どうやって形を保っているのか。
研究内容の詳細は2026年9月10日に『The Anatomical Record』にて発表されました
目次
- CTで標本を切らずに「尾の骨」を見た
- 鱗が伸びて「脚」になり、融合して「胴」になった
CTで標本を切らずに「尾の骨」を見た
この標本はフィールド博物館へ運ばれた当初、尾の先の膨らみは腫瘍のような奇形だと思われていました。
棚に置かれたまま数十年が過ぎ、2003年に似た尾を持つ別の個体が見つかって、ようやく見直されました。
別の個体が見つかって同じ尾を持つと分かり、新種として記載されたのは2006年。
新種の記載からほどなく、尾で鳥を誘う様子が動画に記録されました。
基準標本(ホロタイプ)は、その種の特徴を定める物差しになる個体です。
研究チームはこの基準標本をX線CTで撮り、画像を重ねて立体像にしました。
見たかったのは、尾の先の椎骨。
スナボアの仲間には尾の先の骨が異様な形になる種がいるため、このヘビも中まで奇妙かもしれないと考えたのです。
クサリヘビの椎骨は種ごとの手がかりに乏しく、化石ではばらばらの骨しか見つからないことも多い、とゲオルガリス氏は言います。
結果は拍子抜けするほど普通でした。
クモは外側にしかなく、尾の骨はほかのクサリヘビと同じでした。
「骨格には、外見の極端さを示すものが何もなかった」と筆頭著者のゲオルガリス氏は話しています。
鱗が伸びて「脚」になり、融合して「胴」になった
クモの脚に見える放射状の模様は、すべて変形した鱗でできていました。
尾の鱗は先へ行くほど細長く伸び、しなやかな糸になっています。
上側には楕円形の大きな塊が一つあり、複数の鱗が大きくなって融合したものです。
ルーアン氏によれば、その材質は私たちの爪と同じケラチン。
骨に頼らず、皮膚を極端に作り替える進化が起きたことになります。
この話は、化石だけで昔の動物の姿を復元することの難しさにもつながります。
軟らかい組織は化石に残りにくく、このヘビの骨だけを見ても、鳥をだます尾を持っていたとは誰にも分かりません。
この発見は組織がどう進化し発生するかを調べる土台にもなる、と伝えられています。
古生物学者でもあるゲオルガリス氏は、いつも欠けたピースでパズルを組んでいるようなものだと言います。
半世紀以上前に集められた標本が今も新しい発見を生む、とルーアン氏は博物館の収蔵品の価値を語っています。
調べたのは、基準となる1体だけです。
教科書の復元図に描かれていない飾りが、本当はいくつもあったのかもしれません。
鱗で出来たクモに、鳥は今日もだまされています。
参考文献
A Snake’s ‘Spider’ Tail Turns Out to Be Made Entirely of Skin (ScienceAlert)
https://www.sciencealert.com/mysterious-viper-with-a-spider-for-a-tail-reveals-another-bizarre-surprise
This snake has a fake spider on its tail to lure prey (Popular Science)
https://www.popsci.com/environment/snake-fake-spider-on-tail-hunt/
Vertebral morphology and intracolumnar variation of the iconic and bizarre viperid snake Pseudocerastes urarachnoides (Serpentes, Viperidae)
https://doi.org/10.1002/ar.70308
元論文
Vertebral morphology and intracolumnar variation of the iconic and bizarre viperid snake Pseudocerastes urarachnoides (Serpentes, Viperidae)
https://doi.org/10.1002/ar.70308
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部