優しい人ほど「心の浮気」が深かった――冷徹な策士は、他人に心を奪われない
ルーマニアのアレクサンドル・イオアン・クザ大学(UAIC)で行われた研究によって、性格や関係の満足度が同じような人を比べると、他人を思いやる優しさが強い人ほど、心の浮気が起きやすい傾向があることがわかりました。
思いやりのある人ほど恋人を大切にするはず——その予想が、この比べ方では裏返ります。
論文では、恋人以外の相手への強い没頭を予測する性格には、これまで問題視されてきたものだけでなく、一般には望ましいとされてきた性質も含まれると記述されています。
人を大切にできる力は、なぜ大切な相手の外側にまで働いてしまうのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年8月4日に『Psychological Reports』にて発表されました。
目次
- 恋人がいるのに、頭から離れない人がいる
- 優しい心が「心の浮気」につながった
恋人がいるのに、頭から離れない人がいる
恋人やパートナーがいるのに、職場や友人の輪のなかに、気づくと目で追ってしまう相手がいる——そんな話は珍しくありません。
手を出したわけでもなければ、連絡先を消すほどの理由も見当たりません。
それでも、その人を思い出している時間だけが少しずつ増えていきます。
浮気と聞けば、まず肉体関係があったかどうかに目が向きます。
けれど、そこに至らなくても、別の誰かに心が向くことで関係が傷んでいくことはあります。
研究チームが測ろうとしたのは、行動には表れない、この心の動きのほうでした。
恋人以外の誰かに、考えと感情と欲求が向き続けてしまう状態——研究チームはこれを心の浮気(対外恋慕)と呼び、その強さを測るものさしを自分たちでつくりました。
調査の対象になったのは、交際中のルーマニア人303人です。
女性204人と男性99人、年齢は19歳から64歳(平均37.8歳)、半数がすでに結婚していて、交際期間は平均で9年を超えていました。
さらに参加条件が少し変わっていて、「恋人のほかに、実際に知っていて惹かれている相手がいる」と答えた人だけが対象になっています。
募集を行う過程で、心の浮気をしている人だけを集めていった結果です。
(※顔の見えないネット調査だからこそ、普段は口にできない状態を申告できたのかもしれません。)
次に、この条件をクリアした303人の精鋭たちについて、2つの性質が調べられました。
ひとつは闇の3特性(ダークトライアド)で、計算高く人を操るマキャベリズム、自分を特別だと感じるナルシシズム、衝動的で共感の薄いサイコパシーが含まれます。
もうひとつは、その反対側に置かれる光の3特性(ライトトライアド)で、人を目的として扱い手段にしないカント主義、人の尊厳を重んじるヒューマニズム、人は基本的に善だと信じる人間への信頼の3つからなる、2019年に提唱された比較的新しい枠組みです。
さらに、愛情がなくてもセックスに抵抗を感じない度合いを、態度と経験と欲求の3方向から尋ね、いまの関係にどれだけ満足しているかも測っています。
つまり性格と関係についての合計8項目と、「心の浮気」の強さを比べたのです。
すると予想どおり、闇の3つはどれも、強い人ほど心の浮気も強いという並びでした。
なかでも結びつきがはっきりしていたのはサイコパシーです。
光の3つはその逆で、強い人ほど心の浮気は弱く、いちばんはっきり出ていたのは人間への信頼でした。
人の善意を疑わずにいられる人ほど、恋人以外への想いは弱かったということになります。
しかしより詳しく調べると、2つの性質に逆転が起きていました。
優しい心が「心の浮気」につながった
ここまでは闇の3特性、光の3特性、追加の2項目と「心の浮気」を1つずつ突き合わせ、ある意味で予想どおりの結果が得られました。
闇の特性が強い人ほど心の浮気も強く、光の特性が強い人ほど心の浮気は弱い、という結果です。
ただ、ある特性はたいてい、他の特性の強さや弱さに関連しています。
実際、優しい人は人を信じる気持ち、人を手段として使わない態度、いまの関係への満足感のような、他の良い性質もまとめて持っています。
そのため一つずつ調べるだけでは、性質同士の重なりに邪魔されて、どの性質と心の浮気が結びついているのかを切り分けられません。
そこで研究チームはここから、比べ方を変え、切り分けができるように工夫しました。
たとえばサイコパシー傾向も、愛のないセックスへの抵抗のなさも、恋人への満足度もほとんど同じ2人がいるとします。
違うのは、優しさの度合いだけです。
このとき、恋人以外の相手に強くとらわれているのはどちらなのでしょうか。
このような比べ方をすると、それぞれの性質と心の浮気との結びつきが、よりはっきり見えてきます。
すると、2つの特性の向きが逆になっていました。
ひとつが、人の尊厳を重んじるヒューマニズム、つまり優しさです。
ほかの性格や関係への満足度をそろえて比べると、この優しさが強い人ほど、心の浮気も強かったのです。
優しい心は、目の前の相手の心の動きに敏感で、相手を尊いものとして受け止める力だと考えられます。
そしてその力は、恋人にだけ働くようにはできていません。
研究チームは、優しさに固有の感受性と開放性が、恋人以外の相手とも感情的に意味のある結びつきを作りやすくしているのではないかとみています。
向きが逆になったもう一方は、計算高さ(マキャベリズム)でした。
同じようにそろえて比べると、計算高さが強い人ほど、心の浮気は弱かったのです。
心の浮気は、思考と感情を長い時間ひとりの相手に預け続ける状態です。
恋愛としてはまだ始まってすらいなくても、消費するものは真剣な交際とよく似ています。
戦略的に動き、自分の評判を勘定に入れる人にとって、心の浮気は割に合わない投資なのだろうと論文は説明しています。
元論文
Personality, Relationship Quality, and Infidelity: Extradyadic Infatuation as Predicted by Dark and Light Triad Traits, Sociosexuality and Relationship Satisfaction
https://doi.org/10.1177/00332941261473823
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部