運動の「回数」が少ない学生ほど翌年にうつや不安が出やすい傾向
新学期、慣れない一人暮らしと課題に追われて、高校まで続けていた運動がいつの間にか止まっている人は少なくないでしょう。
大学に入る時期には、新生活による生活リズムの乱れ、家族や友人の距離の変化、お金の心配、課題の重さといった負担が生じえます。心の不調を防ぐうえで大事な時期だとされる理由です。
西ノルウェー応用科学大学などの研究チームは、18〜35歳の全日制の学生10,460人を約1年追跡し、運動の回数が少ない学生ほど翌年にうつ病や不安症の診断基準を満たしやすい、という関連を明らかにしました。
運動のきつさや1回の長さより、どれだけ頻繁に体を動かしているかのほうが、心の健康と一貫して結び付いていました。
これは観察研究なので、運動が病気を防いだと証明するものではありません。
頻度・きつさ・長さのどれが、男女それぞれで不調と関連していたのかは、男女別の解析で確かめています。
研究内容の詳細は2026年8月19日に『PLoS ONE』にて発表されました
目次
- 5万人の調査から1年後、1万人に「診断の質問」をした
- 「運動が効いた」とは言い切れない理由
5万人の調査から1年後、1万人に「診断の質問」をした
元になったのは、ノルウェーの高等教育の学生を対象にした全国調査です。2022年に53,362人が運動の頻度・きつさ・1回の長さを答え、運動をする人は週の合計時間も答えました。
約1年後、標準化された診断用の質問票にウェブで答えてもらい、直近30日か12か月にうつ病のエピソードか不安症の基準を満たしたかを判定しました。回答したのは10,460人です。
解析は男女別に行い、社会人口学的な背景の要因と、調査時点の心理的な苦痛の強さを段階的に調整しています。もともと落ち込んでいた人が運動もしていなかった、という影響をできるだけ取り除くためです。
毎日運動する学生に比べて、ほとんど、または全く運動しない学生が翌年に不調の基準を満たす相対的なリスクは、女性で1.15倍、男性で1.33倍でした。
推奨される活動量に届かない学生でもリスクは高く、週の運動時間が長いほど不調は少ない関係が、逐10時間あたりまで続きました。
ただし、逐10時間を超える回答は10時間にまとめて解析しているので、「10時間が最適」と読むことはできません。
男女で現れ方は違いました。男性では週の運動時間の短さがより強い危険因子で、女性では運動のきつさの低さが不安やうつと関連していました。
18〜24歳の若い学生でやや強い関連が見えたものの、年齢層による違いは正式な解析では支持されませんでした。
「運動が効いた」とは言い切れない理由
続けやすい運動を習慣にすることが、高い強度や極端な量より大事かもしれない、と研究チームは考えています。
世界保健機関が勧める週150分以上の中強度から高強度の活動も、この結果と合っていました。
観察研究である以上、逆向きの説明も残ります。うつや不安の初期の症状が運動を難しくしている可能性や、活動量と心の健康の両方に関わる別の要因がありうるためで、この研究だけでは向きを決められません。
調査の時点で診断を行っていないため、翌年の不調には新しく起きたものだけでなく、続いていたものや再発も混じっています。
運動は自己申告で、診断も自己記入式のウェブ質問票によるものです。ここで言う運動は、散歩やスキー、水泳、スポーツといった活動で、身体活動全般より狭い意味です。
頻繁な活動にはいろいろな動きが含まれます。たまの長時間の運動に頼るより授業の合間に取り入れやすい可能性があり、疲れ果てるほどの運動より定期的に動くことのほうが実際には大事かもしれません。
研究チームは、学生が体を動かしやすい環境を整えることを、健康な学びの場の一部として挙げています。
参考文献
How Often You Exercise May Matter More Than How Hard You Work Out for Mental Health
https://scitechdaily.com/how-often-you-exercise-may-matter-more-than-how-hard-you-work-out-for-mental-health/
元論文
Physical exercise and risk of common mental disorders among higher education students: A national prospective study
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0353787
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部