土星の南極に「十角形」が出現しつつある――1辺が地球に匹敵
スペインのバスク大学(EHU)などの研究によって、土星の南極を取り囲む巨大な「十角形」の雲の模様が、いままさに形を整えている途中の姿で見つかりました。
土星の北極には、雲が六角形を描く有名な模様がありますが、南極で同じような多角形が見つかったことはありませんでした。
研究チームのエイミー・サイモン氏(NASAゴダード宇宙飛行センター)は「北極の六角形は40年以上、見るたびにそこにありました。この模様は違います。強まっているように見えるのです」と述べています。
なぜ今になって、しかも六角形ではなく十角形が、南極に生まれたのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月2日に『Science Advances』にて発表されました。
目次
- 北極には六角形、南極には十角形
- 犯人はすぐ隣の渦か
北極には六角形、南極には十角形
土星といえば巨大な環が代名詞ですが、北極の六角形の雲の模様も、環に次ぐ名物です。
地球の上空にジェット気流が吹いているように、土星にも緯度に沿って東西に吹く強い風の帯(ジェット気流)が何本も走っています。
六角形は、北極に近い北緯78.5度あたりを一周する風の帯が、6か所で折れ曲がって描く模様です。
1980〜81年に探査機ボイジャーが撮った画像で見つかって以来、六角形は観測されるたびに同じ場所に同じ形で居座り続けてきました。
土星の風の帯は北半球と南半球でほぼ対称に並んでいるので、研究者たちは南極にも似た模様があるはずだと考えてきました。
研究チームは1990年からハッブル宇宙望遠鏡の画像で、北極の六角形と対になる模様を南極に探してきましたが、見つかりませんでした。
2004年から2017年まで土星のそばを回っていた探査機カッシーニの画像にも、南極に居座る多角形は写っていません。
ただ、地球からの観測には、長い空白があります。
土星は軸を傾けたまま太陽を回っているため、地球から見ると、北極が手前を向く時期と南極が手前を向く時期が交互に訪れます。
しかも土星の1年は地球の約29.5年もあるので、南極が奥に隠れたままの時期が十年以上も続くのです。
実際、2012年半ばから2023年までは南極が地球から見て奥へ傾いてしまい、その姿を見ることができませんでした。
カッシーニが去った2017年から、南極が再び見え始める2023年までの約6年間は、南極を見ていた目がどこにもなかったことになります。
転機は2024年、オーストラリアのトレバー・バリー氏とフランスのジャン=ポール・オジェ氏という2人のアマチュア天文家が撮った画像に、南極付近でかすかに波打つ帯が写っていたことでした。
2人の画像は、バスク大学が世界中の観測者から惑星の画像を集めているデータベース(PVOL)に届いたものです。
研究チームが同じ場所をハッブルの画像で調べ直すと、南極が見え始めて間もない2023年10月の時点で、帯は薄いながらも十角形の輪郭を描き、2025年8〜9月の画像では、十角形の10本の辺が出そろっていました。
姿を現した十角形も、六角形と同じく風の帯が折れ曲がって描く模様で、一辺は約1万6800kmで、地球の直径(約1万2700km)より長い辺が10本つながっています。
ただ六角形は6本の辺がどれも同じ濃さで見えるのに対し、十角形は10本の辺のうち3本がくっきり、4本がやや薄く、3本はぼやけています。
研究チームは、十角形が数年前にはなく、いまも輪郭を整えている最中であることから、何十年も居座る六角形とは違って「一時的で、発達途中の現象かもしれない」とみています。
犯人はすぐ隣の渦か
十角形の成り立ちには、有力な容疑者がいます。
十角形のすぐ隣、少し赤道寄りの南緯55度あたりに、直径約4000kmの渦を巻く雲のかたまりが、2023年から2025年にかけて観測されています。
十角形の輪は、この渦に近い側で最もくっきりし、渦から遠い側ではぼやけています。
渦のそばだけ、模様が濃いのです。
そこで研究チームは、コンピューターの中に土星の風の帯を再現し、そのそばに渦を置いてみました。
すると渦に引っぱられるように、風の帯がよれて曲がりました。
しかも条件によっては、その曲がりが帯に沿って等間隔に並びました。
折れ曲がりが等間隔に並べば、それはもう多角形です。
渦が多角形の作り手になりうることは、計算の上では確かめられたことになります。
ただし風の流れだけを追った単純な計算なので、観測どおりの十角形そのものは、まだ再現できていません。
ヒントは、北極の六角形にもあります。
六角形が見つかった当時、そのそばにも渦がありました。
サンチェス=ラベガ氏はサイエンスアラートの取材に対し「1980年に六角形が発見されたときも同じことが起こりましたが、その後、近くの渦は消え、六角形だけが残りました」と述べています。
渦は最初のひと押しをするだけで、あとは模様が独り立ちするのかもしれません。
論文も、渦が十角形を生んだ可能性は残っており、渦が消えたあとも十角形は生き残るかもしれないと記しています。
もっとも、渦とはまったく別のきっかけで風の帯が曲がりだした、という筋書きも消えたわけではありません。
はっきりしているのは、この先の数年が見どころだということです。
土星の季節は1つが約7年半と長く、南半球はいま春から夏へ向かっています。
南極側に届く日差しはこれから強まり、サンチェス=ラベガ氏によれば、十角形のある緯度では2032年ごろに最も強くなります。
日差しの変化がこの模様のでき方に関わっているのなら、そのころ十角形はいっそうくっきりしているはずだ、というのが同氏の見立てです。
同氏は「今後数年で不安定になって崩れるのか、それとも日差しが強まるにつれて、より安定した頑丈な形になるのか」を見極める必要があると述べています。
六角形は、発見された時点ですでに完成した形をしていました。
十角形では、薄かった輪郭が年を追うごとに濃くなっていく途中を、いま観察できているのです。
巨大な惑星の大気に多角形が生まれる現場を見られる、めったにない機会です。
参考文献
NASA’s Hubble Tracks New Decagon Encircling Saturn’s South Pole
https://science.nasa.gov/missions/hubble/nasas-hubble-tracks-new-decagon-encircling-saturns-south-pole/
元論文
A decagon wave around Saturn’s south pole
https://doi.org/10.1126/sciadv.aee4251
ライター
ナゾロジー 編集部
編集者
ナゾロジー 編集部