道を歩いているとき、ちょっとした段差や縁石につまずきそうになった経験はないでしょうか?


私たちは障害物をまたぐ際、その高さだけでなく「形」の違いも手がかりにして、足の軌道を調整している可能性があります。


ところが東京都健康長寿医療センター研究所の研究チームが若者と高齢者を比較したところ、高齢者では障害物の形に応じた足の軌跡の違いが、若者ほど明瞭に現れないことが分かりました。


この違いは、高齢者が障害物をどのように避けているのかを理解するうえで、興味深い手がかりになりそうです。


研究成果は2026年7月22日付で、国際学術誌『Human Movement Science』に掲載されました。




目次



  • 人は障害物の「高さ」だけを見て足を上げているわけではない
  • 若者は障害物を越えるかなり前から足を高くしていた

人は障害物の「高さ」だけを見て足を上げているわけではない


私たちは日常生活で、道路の縁石や床のコードカバーなど、さまざまな障害物をまたいでいます。


こうした障害物を安全に越えるには、高さだけでなく形や縁の位置に合わせて足を運ぶ必要があります。


たとえば縁石のような矩形の障害物には、前方に垂直な面と明確な「縁」があります。


そこに足先が接触すると、前へ進む足の動きが妨げられ、つまずきにつながる可能性があります。


一方、コードカバーのようなアーチ型の障害物は表面がなだらかです。


では、人間はこうした「縁」の有無まで捉えて足の動かし方を変えているのでしょうか。


これまでの研究では、主に障害物を越える瞬間の「足と障害物との距離」が調べられてきました。


しかし、一瞬だけを測っても、足を地面から離してから、いつ軌道を変え始めたのかまでは分かりません。


そこで研究チームは、若年者14名と高齢者14名を対象に、形の異なる障害物をまたぐ実験を行いました。


用意したのは、明確な垂直面を持つ矩形(全ての角が直角)と、なだらかなアーチ型の2種類です。


さらにそれぞれに、高さ2.5cm、奥行8cmの小型と、高さ5cm、奥行16cmの大型を設定しました。


参加者は5m先の障害物へ歩いてそのまままたぎ、研究チームはモーションキャプチャーで足の動きを記録。


そして足が地面を離れてから再び着地するまでを0~100%にそろえ、軌跡全体のどの区間に違いが生じるかを分析しました。


最終的な軌跡解析には、若年者12名と高齢者13名のデータが使われています。


その結果、若年者ではアーチ型より矩形をまたぐとき、先に障害物を越える足をより高く上げていました。


一方、高齢者では、形状による足の軌跡の明瞭な違いは検出されませんでした。


詳しい結果を見ると、若者は予想以上に早い段階から足の軌道を変えていたことが分かります。


若者は障害物を越えるかなり前から足を高くしていた


若年者では、矩形とアーチ型による足の軌跡の違いが、足を振り出す動作の約30%が経過した時点から現れていました。


その差は障害物を越える直前まで続き、小型と大型のどちらでも確認されました。


さらに、この区間では矩形障害物をまたぐときの足が、アーチ型より平均約3.7cm高くなっていました。


つまり若者は、障害物の目の前で急に足を持ち上げたのではありません。


矩形障害物にある垂直面や「縁」への接触を避けるように、早い段階から足の軌道を高く調整していた可能性があります。


一方、高齢者では、足を振り出してから着地するまでの軌跡全体に、形状による統計学的に明瞭な違いは確認されませんでした。


ただし、これは「高齢者は障害物の形にまったく反応していない」という意味ではありません。


障害物を通過する瞬間の足と障害物との距離を個別に調べると、高齢者でも形状による有意な違いが確認されたからです。


つまり高齢者でも形状の影響がまったくなかったわけではなく、若者のように軌跡全体へ一貫した違いとして現れなかったのです。


その理由は今回の研究だけでは断定できません。


研究チームは、高齢者では形に合わせた軌跡調整が若者ほど明瞭ではなかった可能性に加え、調整方法の個人差が大きく、集団では一貫した差が出にくかった可能性も挙げています。


さらに同じ研究グループの過去の実験では、本人が気づかない程度に障害物を高くすると若者も高齢者も足を高くしましたが、低くした場合には若者だけが足を低く調整していました。


これらを合わせると、高齢者は危険性が増す変化には対応する一方、比較的危険性が低い状況では細かく軌道を変えず、一定の安全余裕を保っている可能性もあります。


とはいえ、今回の軌跡解析は若年者12名、高齢者13名と小規模で、実際につまずいた回数や転倒との関係を直接調べたものではありません。


今後は対象者を増やし、視線や障害物の認識、実際の接触やつまずきとの関係を調べる必要があります。


何気なく行っている「またぐ」という動作にも、障害物の形を読み取って足を調整する細かな仕組みが隠されているようです。


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参考文献

障害物の「形」に応じて足の軌跡は変わる? ―若年者と高齢者のまたぎ越し動作を比較―
https://www.tmig.or.jp/research/news/nid00001438.html

元論文

Effects of vertical edge presence on foot trajectory during obstacle crossing in younger and older adults
https://doi.org/10.1016/j.humov.2026.103519

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 【なぜ躓く?】高齢者は「障害物の形」に応じた足の軌跡の変化が明瞭でないと判明