日本人は本当に「働きすぎ」なのか? 主要国との比較で見える問題
欧米では夏に何週間も休暇を取れるのに、日本では長期休暇を取りにくい。
定時になっても帰れず、残業が当たり前になっている。
それだけ働いているのに、給料はそれほど高くない。
こうした不満を耳にすることは珍しくなく、日本には今も「世界でも特に長時間働く国」というイメージがあります。
実際、日本では長時間労働が長年にわたって社会問題となり、「過労死」という言葉が海外でも知られるほどになりました。
しかし、日本人の働き方はここ数十年で大きく変化しています。
では現在も、日本人は米国やヨーロッパの人々より長く働いているのでしょうか。
そして「働く時間の割に給料が低い」という日本人の感覚には、国際的なデータから見ても根拠があるのでしょうか。
この問題を考えるうえで役立つのが、OECDが公表している各国の労働時間や賃金、生産性に関する統計です。
OECDとは「経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)」の略称で、日本、米国、ドイツ、フランス、韓国など38カ国が加盟する政府間機関です。
各国の経済、雇用、賃金、教育、社会保障などのデータを集め、共通の指標を使って比較しているため、日本の働き方が主要先進国の中でどの位置にあるのかを見る手がかりになります。
そこで今回は、労働時間だけでなく、休暇、賃金、そして「1時間働いてどれだけの価値を生み出しているか」を示す労働生産性まで確認しながら、世界から見た日本の労働状況を見ていきます。
目次
- 日本はもう「世界屈指の長時間労働国」ではない
- 「欧州は休みが多くて、日本は休みが少ない」のか?
- 「日本は働いている割に給料が安い」は本当なのか?
日本はもう「世界屈指の長時間労働国」ではない
OECDが公表している2024年の「就業者1人当たり年間実労働時間」を見ると、日本は1617時間でした。
同じ指標ではOECD平均が1741時間、米国が1796時間、韓国が1865時間で、日本よりかなり長くなっています。
| 国 | 2024年の年間実労働時間 |
|---|---|
| メキシコ | 2215時間 |
| 韓国 | 1865時間 |
| 米国 | 1796時間 |
| OECD平均 | 1741時間 |
| イタリア | 1715時間 |
| 日本 | 1617時間 |
| 英国 | 1538時間 |
| フランス | 1509時間 |
| ドイツ | 1334時間 |
つまり日本の労働時間は、韓国や米国より短く、OECD平均も下回る一方、フランスやドイツよりは長いという位置にあります。
少なくとも「日本人は世界のどの国よりも長時間働いている」というイメージは、現在の平均労働時間には当てはまりません。
ただし、この数字をそのまま使って「日本の労働時間は世界第○位」と順位付けするのは適切ではありません。
OECD自身、年間実労働時間については、各国で統計資料や算出方法が異なるため、同じ年の絶対値を厳密に国同士で比較する用途には向かず、主として各国内の長期的な変化を見るのに適していると述べています。
では日本国内に限定して、この指標の変化を見ていくとどうなるでしょうか?
1990年の日本の年間実労働時間は2031時間でしたが、2024年には1617時間まで減っています。
日本の労働時間は、約35年間で年間400時間以上も減っている計算になるのです。
「日本人は長時間働く」というイメージは、過去にはかなり現実を反映していましたが、このデータを見ると現在もその状態が継続しているとは言えない状況のようです。
とはいえ、平均時間が短くなったからといって、日本の長時間労働問題が解決したと考えることもできません。
OECDは、日本の平均労働時間が大きく下がった背景の1つとして、比較的労働時間の短い非正規雇用者が増えたことを指摘しています。
極端な例を挙げれば、週60時間働く人と週20時間働く人が同数いれば、平均は週40時間になります。
平均値が正常に見えても、長時間労働をしている人がいなくなったわけではありません。非正規雇用が増えたことで、負担の増えた正規雇用の社員も大勢いるはずです。
そのため日本の状況は平均労働時間はかなり短くなった一方で、一部の職種や労働者には依然として長時間労働が集中していると考えた方が実態に近いでしょう。
ドイツはなぜ労働時間が短いのか?
こうしてみるとドイツが極端に労働時間が短く見えます。
この理由については、ドイツでは、フルタイムではなく短時間で働く雇用形態(正規雇用)が社会に広く普及しており、その割合が大きいため、就業者1人あたりの平均労働時間が強く押し下げられていると考えられてます。
またドイツは病欠の多さも特徴的だといいます。
ドイツでは、もともと病欠が多い傾向がありましたが、コロナ禍以降は具合が悪い人はきっちり休ませる企業が増えており、病欠で最長6週間、給与の100%が支払われます。そのため体調不良で無理に出勤する必要が小さいのです。
病欠が多いというのは問題に思えますが、体調の悪い人をきっちり休ませることは、感染症拡大による潜在的なコストを抑える可能性があり、復帰後の生産性も良くなると言われています。
こうしたデータから見るとドイツは労働時間の割にGDPが高いので、かなり理想的な環境に思えます。
しかしドイツでは就業者数そのものは多い一方、短時間勤務が多く、1人当たり労働時間は減っている一方で、企業は深刻な人手不足を訴えており、特に医療・介護、建設、再生可能エネルギー、宿泊・飲食、運輸などでは必要な技能を持つ人が不足しているといわれています。
ドイツでは平均労働時間は短いけれど、負担は均等ではなく、一部の労働者に長時間労働・残業・高い仕事密度が集中しているという調査報告もあります。
そのためOECDは、ドイツは“効率化に成功”しているわけではなく、むしろ短時間勤務の偏重や労働力不足を改善すべき課題だと述べています。
逆にメキシコは極端に平均労働時間が長いですが、経済的にあまり豊かでない国の場合、20~59歳の働き盛り以外の世代の労働時間が伸びることが原因になると考えられています。
若者の労働時間が短くなる大きな理由は学校教育が普及しているためで、高齢者の労働時間が短くなる大きな理由は年金制度が整っているためだと考えられています。そのためこれらの制度が整っていない国では、平均労働時間が伸びる傾向があるのです。
「欧州は休みが多くて、日本は休みが少ない」のか?
日本人が「自分たちは海外より働いている」と感じるもう1つの大きな理由が休暇の取り方の違いです。
旅行会社Expediaが2024年に世界11地域、1万1580人を対象として実施した同一形式の調査によると、前年に勤務先から与えられた休暇日数の平均は、日本が19日、ドイツが29日、フランスが31日でした。
これに対して実際に取得された日数の平均は、日本が12日、ドイツが27日、フランスが29日です。
つまり、日本人の有給支給日数や実際に取った休暇日数はドイツやフランスの半分以下でした。
この調査は政府統計ではなく民間のオンライン調査ですが、日本については、厚生労働省の最新の公式統計とかなり近い数字なので信頼性は高いと予想できます。
ちなみに厚生労働省の2025年「就労条件総合調査」によると、2024年に日本の労働者へ付与された年次有給休暇は平均18.1日、実際に取得されたのは12.1日、取得率は66.9%でした。
つまり日本では、そもそも欧州の代表的な国より付与される休暇が少ない上、与えられた休暇もすべて使っていない人が多いことになります。
また制度上の最低ラインにも違いがあります。
週5日勤務を基準に揃えると、フランスでは法律上、年間25日の有給休暇が最低限保障されています。
ドイツは20日が最低ラインですが、労働協約では30日前後が一般的です。
これに対して日本では、一般的な週5日勤務の労働者の場合、入社から6カ月継続勤務するとまず10日が付与され、その後勤続年数に応じて増え、6年6カ月以上で20日になります。
したがって、「日本は長期休暇が短い」という感覚は、単なるイメージとはいえません。
欧州の各国と比較すると「ヨーロッパでは夏休みに数週間の休暇を取れるのに、日本では難しい」という印象には、かなり実態があるといえます。
ただ、米国と比べると、日本の方が休めていると考えてよさそうです。
Expediaが同じ方法で行った2024年の国際調査では、前年に実際に取得した休暇は日本が平均12日、米国が11日とほぼ同じでした。
しかも米国では、民間労働者に一定日数の有給休暇を与えることを義務づける連邦法がありません。
そのため、最終的な年間実労働時間を見ると、日本が1617時間だったのに対し、米国は1796時間と比較的長くなっています。
つまり少なくとも米国との比較では、「日本人は海外の人より休めない」というイメージは当てはまりません。
日本は祝日が多い?
こうした問題で、よく話題になるのが日本は他国と比較して祝日が多いという意見です。
実際日本はそんなに祝日が多いのでしょうか?
日本には法律で定められた「国民の祝日」が年間16日あります。
これに対してフランスの祝日は11日、ドイツは州によって変わりますがおおむね10~14日程度です。
なので日本の方が祝日は多いものの、その差は数日程度です。そのため、祝日の数では10日以上ある有給休暇の取得差を埋めることはできません。
ただ、英国の場合は少し事情が異なります。
英国では基本的に有給休暇は28日程度と定められています。ただ、法律でこの有給休暇には祝日を含めても良いというルールがあります。
イングランドとウェールズでは通常8日前後のバンクホリデー(祝日)がありますが、これは有給の一部として扱う企業もあります。
そのため実際英国では、自由に使える有給休暇は20日程度となる場合もあるようです。
また日本では「年末年始休暇」「夏季休暇」を会社休日として、有給とは別に設定している場合が多い一方、欧州ではこうした休みも有給に含める場合が多いといいます。
当然企業によって、最終的に休暇の日数がどのようになるかは幅があるため、総休暇日数がどうなるかを比較することは難しいですが、このような各国の数字を見ると、欧州ではまとめて有給を一気に使う人が多い、というだけで、特別日本と休暇の日数に大きな差があるというわけでもなさそうです。
「日本は働いている割に給料が安い」は本当なのか?
では、もう1つよく聞かれる「日本は働く時間の割に所得が低い」という話はどうでしょうか。
OECDの2024年データでは、日本の平均年間賃金は4万9446ドルでした。
OECD平均は6万1147ドル、フランスは6万608ドル、英国は6万3691ドル、ドイツは6万9433ドル、米国は8万2933ドルです。
韓国は5万947ドルで、日本と比較的近い水準でした。
なおここで使われているドルは、単純に為替レートで円をドルへ変換したものではありません。
国によって物価が違うため、同じ100ドルでも買える物やサービスの量は違います。
そこで、「購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)」というもので値を調整しています。購買力平価とは、各国で同じような商品やサービスを買うのに必要な金額を基準に通貨を換算し、物価の差をできるだけ取り除いて比較する方法です。
たとえば「円安だから日本の給料がドル換算で安く見えているだけ」という影響を小さくし、「その給料で国内でどれだけ物やサービスを買えるか」に近づけて比較するわけです。
その購買力平価で調整しても、日本の平均年間賃金はOECD平均より約19%低く、ドイツより約29%、米国より約40%低い水準です。
しかも日本では、2000年の同じ指標が約5万109ドル、2024年が4万9446ドルとなっており、実質的には20年以上ほとんど伸びていません。
一方でOECD平均は同期間に約5万1215ドルから6万1147ドルへ、米国は約6万4928ドルから8万2933ドルへ増えています。
この意味では、「日本では長く働いても所得が増えていない」という感覚にはかなり根拠があります。
日本はフランスやドイツより年間労働時間が長い一方、購買力平価で調整した平均賃金は両国より低くなっています。
また米国より年間労働時間は短いものの、平均賃金にはかなり大きな差があります。
問題は「何時間働くか」だけではなく「1時間でどれだけの価値を生み出せるか」
この違いを考えるうえで重要なのが「労働生産性」です。
労働生産性とは、簡単にいえば、働いた時間からどれだけの経済的価値を生み出したかを示す指標です。
日本生産性本部がOECDのデータをもとに計算したところ、2024年の日本の時間当たり労働生産性は購買力平価換算で60.1ドルでした。
これはOECD加盟38カ国中28位です。
OECD自身も2026年の対日経済審査で、日本の時間当たり労働生産性はOECD平均を下回っていると指摘しています。
さらに日本の時間当たり生産性の年間成長率は、2000~2008年には平均1.2%だったのに対し、2019~2024年には0.3%まで鈍化しました。
労働生産性には、企業がどれだけ設備やITに投資しているか、仕事がどのように分担されているか、産業構造がどうなっているか、企業が商品やサービスにどれだけ高い付加価値をつけられるかなど、多くの要因が影響します。
このことからOECDは、日本の生産性停滞の背景として、労働者1人当たりの設備投資の伸び悩みや、先端デジタル技術の導入の遅れなどを挙げています。
他にも価値を生まない多段階の取引や、中小企業と大企業の生産性格差、公的融資などで低生産性企業が市場に残りやすいこと、低生産性企業から高生産性企業へ人材や資本が移りにくい産業構造などの問題が指摘されています。
日本の問題は、労働時間よりこのような構造上の問題や投資の遅れ、労働力の分配が上手く行っていないところにあるのでしょう。
参考文献
OECD「Hours worked」
https://www.oecd.org/en/data/indicators/hours-worked.html
Expedia「エクスペディア 世界11地域 有給休暇・国際比較調査2024を発表」
https://www.expedia.co.jp/stories/vacation-deprivation2023/
元論文
Global Working Hours
https://doi.org/10.1093/qje/qjag030
ライター
亀岡 誠司: フリーランスの経済ライター。中立な視点から経済の複雑な動きをわかりやすく伝えることを使命とし、読者が直感的に理解できる記事作りを心がけています。
編集者
ナゾロジー 編集部