「質の悪いAI翻訳本」がネット書店で急増、専門家が教える“10の見分け方”
表紙がある。訳者名もある。そして世界的な名作がきちんと1冊の本になっている。
それでも、その翻訳を本当に人間の専門家が手がけたとは限らない時代になりつつあります。
専門家は、AIや機械翻訳、セルフ出版の普及によって、低品質なAI翻訳とみられる本がオンライン市場に流れ込んでいると警告しています。
英リーズ大学(University of Leeds)の文学翻訳の専門家テリー・ブラッドフォード(Terry Bradford)氏は、こうした本を見分けるための10のサインを紹介しています。
目次
- なぜ「質の悪いAI翻訳本」が出回りやすくなったのか
- 専門家が教える「AI翻訳本を疑う10のポイント」
なぜ「質の悪いAI翻訳本」が出回りやすくなったのか
現在は、著作権の切れた古典文学の原文をオンラインで簡単に入手できます。
そして、AIや機械翻訳を使って別の言語に変換し、セルフ出版サービスから販売することができます。
とくにドストエフスキーやマキャヴェリなど、作品がパブリックドメインになっている著名作家は、その対象になりやすいとブラッドフォード氏は指摘します。
古典作品を公開するサービスもあり、原文を手に入れて翻訳本を作るまでのハードルは以前より低くなっています。
実際、ブラッドフォード氏自身も、オンラインでジュール・ヴェルヌ作品の英訳本を購入した際に、この問題を意識するようになったそうです。
その本は「現代の読者向け」をうたっていましたが、実際の文章は1877年に出た初期の英訳と同じくらい古風で、文章の体裁も出版業界の標準から見て粗雑だったといいます。
そのため彼はAIが使われながら、その事実が示されていないと判断し、本を開いて3分もしないうちに返金を受けました。
では、なぜこうした本が問題なのでしょうか。
文学翻訳は、単語を別の言語に置き換えるだけではありません。
登場人物の話し方、文章のリズム、皮肉やユーモア、作品が書かれた時代背景まで読み取り、別の言語でどう表現するかを考える必要があります。
そのため、プロの文学翻訳者が1作品を読み、調べ、訳し終えるまでには数カ月から数年かかることもあります。
またAIは完全に中立な価値観をもっておらず、とくに植民地時代の文学などに含まれる古い人種的ステレオタイプを反映させてしまう可能性があります。
こうした部分は作品の歴史的背景を理解したうえで慎重に扱う必要がありますが、現在のAIには荷が重いようです。
さらに大きいのが「量」の問題です。
時間をかけて作られた人間の翻訳が、大量に生み出されるAI支援翻訳の中に埋もれてしまうなら、読者が良質な翻訳へたどり着きにくくなる可能性があります。
では、私たちはこうした「質の悪いAI翻訳本」をどのように見分けることができるでしょうか。
専門家が教える「AI翻訳本を疑う10のポイント」
ブラッドフォード氏は、購入前に確認できる「質の悪いAI翻訳本に共通するポイント」を挙げています。
1つ目は、表紙のデザインが粗雑だったり、商業出版物として不自然に見えたりすることです。
翻訳だけでなく、表紙にもAIが使われている可能性があります。
2つ目は、原著者がすでに亡くなった有名作家であることです。
これは、著作権が切れた作品は原文を利用しやすいためです。
3つ目は、作品のタイトルそのものが有名な作品、あるいは「有名作家のあまり知られていない作品」であることです。
これは、すでに知名度のある作品ほど読者の関心を引きやすく、また原文が入手しやすいため、AI翻訳や簡易な機械翻訳を使った“量産本”の対象になりやすいからです。
4つ目は、翻訳者名を検索しても経歴や過去の仕事がほとんど見つからないことです。
大量に翻訳書を出しているのに、翻訳者としての活動記録がほぼ見当たらなければ注意する材料になります。
5つ目は、翻訳者の写真がないことです。
もちろん、写真がないだけでAI翻訳とは判断できませんが、1つの判断基準になります。
6つ目は、出版社の記載がなく、セルフ出版とみられることです。
その場合、専門編集者によるチェックを受けていない可能性があります。
7つ目は、その名義でAI普及後に不自然なほど多くの本が刊行されていることです。
文学翻訳には本来かなりの時間がかかるため、出版点数は重要な手掛かりになります。
8つ目は、1人がフランス語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語など、非常に幅広い言語から多数の作品を翻訳しているように見えることです。
9つ目は、試し読みしたときに段落の字下げがないなど、基本的な組版が崩れていることです。
これは「サンプル」「試し読み」を確認すると明らかです。
そして10個目は、実際の文章(サンプル)を読むことです。
「現代の読者向け」「現代的な翻訳」をうたっているのに、不自然に古臭い文章になっていないかを確認できます。
10のポイントを考慮できました。
もちろん、これらはAI使用を証明するものではありません。
1つ当てはまっただけでAI翻訳と決めつけるのではなく、複数のサインが重なったときに、訳者の経歴や出版社、試し読みを改めて確認するための目安です。
AIとセルフ出版によって、本を世に出すハードルは大きく下がっています。
だからこそ今後は、「本として売られているから専門家が十分に確認している」と安易に考えるべきではありません。
誰が訳し、誰が出版し、実際にどんな文章になっているのかを読者自身が確かめることが重要なのです
参考文献
AI is flooding the online book market with poor translations – here’s how to spot them
https://theconversation.com/ai-is-flooding-the-online-book-market-with-poor-translations-heres-how-to-spot-them-288166
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部