地球上でもっとも「外部接触が少ない人々」は誰か?
今や、スマホひとつで地球の裏側とも瞬時につながれる時代ですが、世界には今なお、外部社会との接触をほとんど持たずに暮らしている人々がいます。
こうした「未接触」あるいは「孤立」した先住民集団は、世界に少なくとも196存在すると推定されており、南米やアジア、太平洋地域のおよそ10カ国に分布しています。
では、その中でも地球上でもっとも外部との接触が少ない人々は、一体誰なのでしょうか。
目次
- 「未接触」とは、誰とも会っていないという意味なのか?
- 船やヘリコプターに矢を放つセンチネル族
- 見つからないために「自分の足跡まで消す」人々
「未接触」とは、誰とも会っていないという意味なのか?
まず知っておきたいのは、「未接触の人々」という呼び方が必ずしも「外部の人間を一度も見たことがない人々」を意味するわけではないことです。
こうした集団については厳密に統一された定義がなく、国連でも「未接触の人々」「自発的に孤立している人々」など、さまざまな表現が使われています。
先住民の権利保護に取り組むサバイバル・インターナショナル(Survival International)は、未接触の人々を「外の世界の存在を認識しながら、基本的に外部者との接触を避け、恒常的な関係を持っていない先住民」と捉えています。
つまり、「完全に接触ゼロ」か「外部社会と交流している」かという二択ではありません。
恒常的に外部と交流している状態から、たまに接触する状態、ほとんど接触しない状態まで、その間には連続的な幅があります。
それでもこうした人々に共通するのは、独自の生活を守るため、自ら外部との接触を制限していることです。
その有力候補として知られているのが、インドのアンダマン・ニコバル諸島に属する北センチネル島の「センチネル族(Sentinelese)」です。
彼らについては分かっていないことが非常に多く、「センチネル族」という名前さえ彼ら自身が名乗っているものではなく、暮らしている島の名称に由来しています。
サバイバル・インターナショナルによると、センチネル族の人口は50~150人ほどと推定されていますが、島への接近そのものが難しいため、正確な人数は分かっていません。
インド政府も彼らを通常の国勢調査の対象としていないため、正式な人口は不明です。
船やヘリコプターに矢を放つセンチネル族
センチネル族が「地球上でもっとも外部との接触が少ない人々」の有力候補とされる大きな理由は、彼ら自身が外部との接触を強く拒んでいることです。
彼らは狩猟や採集を行い、海岸では魚を捕り、手作りの細長いカヌーを利用して生活しています。
しかし外部から船が近づいたり、ヘリコプターが上空に現れたりすると、弓矢を放つことがあります。
アンダマン・ニコバル諸島の人々を研究してきたカナダ・ウォータールー大学(University of Waterloo)のシムロン・シン(Simron Singh)氏は、この行動そのものが彼らからの明確なメッセージだと説明しています。
つまり矢を放つという行為は、単なる攻撃ではなく、「自分たちを邪魔しないでほしい」という意思表示でもあるのです。
現在、インドでは北センチネル島から半径約5キロメートル以内への立ち入りが法律で禁止されています。
これは訪問者を攻撃から守るだけでなく、センチネル族自身を守るためでもあります。
長く孤立してきた集団は、外部社会では一般的な感染症に対して十分な免疫を持っていない可能性があり、外部者との接触そのものが深刻な健康被害につながりかねないからです。
実際、センチネル族との不用意な接触は訪問者にとっても非常に危険です。
2018年には、違法に島へ向かったアメリカ人宣教師ジョン・アレン・チャウ(John Allen Chau)氏が殺害されました。
しかし、彼らの警戒心を単に「外部を知らない人々の恐怖」と考えるのも正確ではありません。
1800年代にはセンチネル族がイギリスの植民者と接触し、一部の島民が連れ去られ、その後病気に感染して死亡した歴史があります。
近隣の島々に暮らしていた大アンダマン人(Great Andamanese)も、イギリス人入植者との衝突や外部から持ち込まれた病気によって、20世紀半ばまでに人口が最大99%減少しました。
こうした歴史を考えると、外部社会を警戒することには十分な理由があるのです。
見つからないために「自分の足跡まで消す」人々
しかし、「もっとも外部との接触が少ない」という点では、センチネル族だけが候補ではありません。
サバイバル・インターナショナルの推定では、「未接触」あるいは「孤立」した人々の約95%はアマゾン盆地に暮らしています。
その中でも特に興味深いのが、ペルー中部アマゾンのアグアイティア川流域に暮らす「カカタイボ族(Kakataibo)」です。
カカタイボの中には、外部との接触を避けて孤立状態で暮らす人々がおり、彼らは他の先住民からさえ、めったに目撃されません。
孤立した人々を研究する人類学者ベアトリス・ウエルタス(Beatriz Huertas)氏によると、彼らは発見されないために、地面についた自分たちの足跡を土で消してしまうことさえあるといいます。
そのため、彼らについて分かっていることは非常に限られています。
ただし、これほど徹底して隠れるのも、外の世界について何も知らないからではありません。
ウエルタス氏は、彼らが過去に外部との好ましくない接触を経験したからこそ、「孤立すること」を自分たちを守る戦略として選んでいると説明しています。
こうした歴史を見ると、「未接触」という言葉から想像されがちな「文明を知らず、石器時代のまま暮らしている人々」というイメージが正しくないことが分かります。
彼らは外の世界の存在を知らないのではなく、むしろ外の世界との接触を経験したり、その危険を認識したりしたうえで、距離を置くことを選んでいる場合があるのです。
地球上でもっとも外部との接触が少ない人々を、たった1つの民族に決めることはできません。
北センチネル島で外部者を拒むセンチネル族も、アマゾンの森で足跡さえ消す人々も、それぞれ異なる方法で外の世界との距離を保っています。
しかし共通しているのは、彼らの孤立が単なる「時代遅れ」ではなく、歴史や経験の中から選ばれた生存戦略でもあるという点です。
私たちにとってもっとも重要なのは、彼らを無理に「発見」したり現代社会へ引き込んだりすることではなく、接触しないという彼ら自身の選択を尊重することなのかもしれません。
参考文献
Who are the least-contacted people on Earth?
https://www.livescience.com/human-behavior/who-are-the-least-contacted-people-on-earth
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部