目標に向かって努力している。


仕事もこなし、周囲から見れば成功しているように見える。


それなのに、なぜか人生に幸福を感じない。


こうした感覚を抱く人は少なくなりません。


そして、これまでの心理学研究により、なぜか幸福度が上がらない人たちには「共通する3つのパターン」がよく見られることが明らかになっています。


自らの幸福度を下げてしまう3つの要因とは何なのでしょうか?




目次



  • その1:心の土台となる「安全」が確保されていない
  • その2:「ここが私の居場所だ」と思える心の拠り所がない
  • その3:自分の価値を「外部の評価」に預けてしまう
  • まとめ:幸福は「上へ登ること」だけでは得られない

その1:心の土台となる「安全」が確保されていない


現代では、挑戦することや成長し続けることが高く評価されます。


転職、起業、新しいスキルの習得、人生のレベルアップ。


こうした言葉は前向きで魅力的に聞こえます。


しかし、心理学の考え方では、より高い目標を追う前に「安全の欲求」が心理的な土台として重要になります。


ここでいう安全とは、経済的な安定、健康への安心、生活の予測可能性などです。


土台が揺らいでいると、私たちの心と体は警戒状態を続けます。


その状態で大きな夢を追いかけても、心のリソースは未来の成長ではなく、目の前の不安に奪われてしまうのです。


実際、『Science』に掲載された先行研究では、経済的な欠乏感が認知的な処理能力を低下させることが示されています。


経済的に不安定だと感じている人は、短期的な心配ごとに注意を取られ、計画を立てたり、長期的な判断をしたりする力が損なわれやすくなるのです。


また重要なのは、単に収入が多いか少ないかだけではありません。


本人が「自分は安全だ」と感じられているかどうかが、人生満足度に大きく関わります。


もちろん、多くの場合、収入や生活の安定はその感覚と深く結びついています。


それにもかかわらず、睡眠不足、経済的不安、過剰な仕事量を抱えたまま、自己実現を目指そうとする人は少なくありません。


その結果、「大きな夢を追っている」「努力している」と見えながら、実際には燃え尽きに近づいてしまうことがあります。


本来なら意味を感じられるはずの目標を追っているのに、常に疲れていたり、神経が張りつめていたりするなら、まず見直すべきなのは夢の大きさではなく、心の安定性かもしれません。


その2:「ここが私の居場所だ」と思える心の拠り所がない


心理学研究医よると、人は本質的に「社会的な存在」であり、誰かとつながっている感覚は、ぜいたくではなく基本的な必要です。


孤独がメンタルヘルスに悪影響を与えることは、十分に知られています。


しかし、その影響は心だけにとどまりません。


『Perspectives on Psychological Science』に掲載されたメタ分析では、社会的孤立や孤独が早期死亡のリスクを大きく高めることが報告されています。


その影響は、1日に15本のタバコを吸うことに匹敵すると紹介されており、肥満や運動不足よりも強い有害性を示す場合があるとされています。


この点から見ると、所属感(自分の居場所だと思える心の拠り所があるかどうか)が幸福の基礎にあるのは自然なことです。


ところが、現代社会はこの所属感を満たしにくい方向へ進んでいます。


リモートワークは、人と顔を合わせる機会を減らします。


SNSは多くの人とつながっているように見せますが、それは顔も本名も知らない匿名の人との繋がりで、必ずしも深い親密さを生みません。


成果主義の文化は、つながりよりも競争を優先させることがあります。


そのため私たちは、常に誰かと連絡を取り合っているにもかかわらず、深く孤独を感じることがあります。


「通知は来るのに、安心して弱音を吐ける相手はいない」


「フォロワーは増えているのに、自分の成功を心から喜んでくれる人が見えない」


そんな状態では、どれほど成果を出しても、その達成はどこか空虚に感じられます。


所属感が不足すると、モチベーションも不安定になります。


なぜなら、大きな目標の背後に「支えてくれる人」や「共に喜べる人」がいないと、成功そのものの意味が薄れやすくなるからです。


所属とは、人気者になることではありません。


自分が誰かに受け入れられていると感じられることです。


その感覚がなければ、承認や自己実現を手に入れても、幸福感は十分に育ちにくいのです。


その3:自分の価値を「外部の評価」に預けてしまう


心の健康を保つ上で、「承認欲求」は重要なファクターとなります。


本来、健全な承認欲求は成長を支える力になります。


しかし、現代では自分の価値を外部の評価に預けてしまう場面が増えています。


SNSの「いいね」、フォロワー数、昇進、収入、外見、生産性。


これらは努力の結果を測る指標にはなりますが、自分の存在価値そのものを測るものではありません。


それにもかかわらず、私たちは外から見える数字や反応によって、自分の価値を判断してしまうことが増えています。


『Journal of Abnormal Child Psychology』に掲載された研究では、SNS上での比較が、抑うつ症状や低い自尊感情を予測することが示されています。


つまり、自分の価値をオンライン上の反応に強く結びつけるほど、感情の状態は不安定になりやすいのです。


これは、外部の評価がそもそも不安定なものだからです。


今日は称賛されても、明日は無視されるかもしれません。


投稿の反応がよければ自信が湧き、反応が悪ければ自分には価値がないように感じてしまう。


このように、自己評価を外部に預けるほど、心は他人の反応に振り回されます。


心理学の視点から見ると、承認欲求が外部に固定されている限り、安定した自己実現は難しくなります。


意味のある目標を追っているつもりでも、その奥に「認められたい」「評価されたい」という不安が強くあると、小さな停滞や失敗が自分自身の否定のように感じられるからです。


ここで大切なのは、外部の評価をすべて捨てることではありません。


昇進や成果、SNSでの反応がうれしいと感じるのは自然なことです。


問題は、それらがないと自分の価値を感じられなくなることです。


何も達成していない日でも、自分の価値を感じられるでしょうか。


停滞している時期でも、自分の存在を否定せずにいられるでしょうか。


もし難しいなら、目標の中身よりも、承認の土台を見直す必要があるかもしれません。


健全な自尊感情は、野心を消すものではありません。


むしろ、自分の価値が安定しているからこそ、失敗を過度に恐れず、長期的な目標に向かいやすくなります。


まとめ:幸福は「上へ登ること」だけでは得られない


幸福というと、私たちはつい「もっと上を目指すこと」を想像します。


もっと成功したい。


もっと評価されたい。


もっと特別になりたい。


しかし、これまでの心理研究から見えてくるのは、幸福が単なる上昇ではなく、複数の欲求のバランスによって支えられているということです。


心の安全の土台が崩れていれば、夢を追うほど疲れてしまいます。


所属感が満たされていなければ、成功しても孤独が深まります。


自尊心を外部の評価に預けていれば、達成しても不安は消えません。


私たちは、より高く登ることばかりに気を取られているうちに、自分を支える下の層を見落としてしまうことがあります。


本当の充実に必要なのは、終わりなく上を目指し続けることではありません。


自分が安心できる足場を整え、誰かとつながり、自分の価値を外部の反応だけに預けないことです。


幸福とは、頂上にたどり着くことではなく、今の自分を支える層のバランスを取り戻すことなのかもしれません。


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参考文献

3 Common Ways We Undermine Our Own Happiness
https://www.psychologytoday.com/us/blog/social-instincts/202604/3-common-ways-we-undermine-our-own-happiness

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 自らの幸福度を下げてしまう「3つの共通パターン」