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「眠いのに寝ない」「特にやることもないのに寝ようとしない」──こうした行動は、単なるだらしなさや怠け癖では説明できません。
心理学ではこの行動を「就寝先延ばし行動」と呼びます。
研究によれば、これはタスク回避型の一般的な先延ばしとは異なり、就寝という“自分にとって良いこと”を遅らせるという点で独特の性質を持っています。
多くの人が、寝る直前になるとスマートフォンでSNSを見たり、動画を延々と再生したりします。
こうした行動の裏には「夜ぐらいは自分の時間を持ちたい」「何かを逃しているかもしれない」といった心理が潜んでいます。
最新の研究では、中国の吉林・遼寧・山東省に住む大学生を対象に、就寝先延ばし行動と心理的要因の関係を調査しました。
その結果、就寝を先延ばしにする人々には、共通して以下の特徴が見られました。
1:自己効力感が低い
2:SNSを長時間利用している
3:見逃すことへの不安(FOMO)が強い
「自己効力感」とは、自分には課題をうまく乗り越える力がある、やるべきことはしっかり遂行できると信じられる感覚のことです。
これは単なる自信ではなく、具体的な行動への見通しと深く関係しています。
研究によれば、自己効力感が低い人は「眠る」というごく基本的な行動に対してさえ、先延ばしする傾向があることがわかりました。
この研究では、自己効力感の低さがどのようにして就寝先延ばし行動につながるのか、さらに詳しく調べられました。
カギとなるのは、SNSの使用頻度とFOMO(見逃し不安)です。
FOMOとは「他人が自分の知らないところで楽しいことをしているかもしれない」と感じる不安のことです。
SNSで友人の近況や楽しそうな投稿を見ると、「今寝ている場合じゃない」「絶対に見逃してはいけない」と感じてしまう心理です。
研究チームは、自己効力感が低い人ほどSNSを頻繁に利用し、その結果、FOMO傾向が高まって、それが就寝先延ばし行動を助長するというモデルを提案しました。
そして統計解析の結果、このモデルは概ね支持されました。
ただし、SNS利用とFOMOは、あくまで「一部の要因」であり、自己効力感と就寝先延ばしの関係を完全に説明するものではありませんでした。
つまり、「できる気がしない」という漠然とした感覚自体が、行動全体に影響を与えている可能性があるのです。
さらに興味深いことに、FOMOが就寝先延ばしと関係するのは女性のみという性差も観察されました。
これはSNSとの心理的つながり方や対人関係への感受性が性別によって異なることを示唆しています。
「眠いのに寝ない」「明日早いのにスマホが手放せない」──そんな悩みの裏には、ただの意思の弱さではなく、もっと深い心理的な構造が潜んでいます。
自己効力感が低いと、「寝るべきだ」と頭でわかっていても、その行動を実行に移すことが難しくなるようです。
そしてその背後には、SNSという無限に刺激を与える環境と、「何かを逃してしまうのではないか」という不安が存在しています。
もしあなたが「することないのに寝られない」タイプなら、まずは「自分はちゃんと眠ることができる」と信じることから始めてみるといいかもしれません。
参考文献
New study links low self-efficacy to bedtime procrastination
https://www.psypost.org/new-study-links-low-self-efficacy-to-bedtime-procrastination/
元論文
Self-Efficacy, Fear of Missing out, Social Media Use, and Bedtime Procrastination in Chinese College Students
https://doi.org/10.1177/00332941251329864
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部