- 週間ランキング
私たちは長らく「親友とは何でも話せて、頻繁に会う存在」という理想を信じてきました。
実際、多くの自己啓発本やドラマでは、心の内を全てさらけ出し、どんな時も一緒にいることが理想の友情として描かれています。
しかし、この理想がすべての関係に当てはまるとは限りません。
例えば、趣味が合うけど生活リズムが真逆の友人、あるいは昔からの仲だけど価値観が少しずつズレてきた友人がいるかもしれません。
こうした相手と、以前と同じ距離感で付き合おうとすると、どこか無理が生じます。
フランコ博士は、そうした友情のあり方に対して「low-dose(低用量)な友情」という概念を提示しています。
これは、あえて距離をとって、小さな接点の中で関係を維持するスタイルです。
たとえば、「毎週会っていたのを月1にする」「一緒に旅行は避けるけど、食事は楽しむ」「個別ではなくグループで会う」などの工夫が挙げられます。
こうした調整が、実は友情をより健全に保つカギになるのです。
実際、博士は「旅行スタイルが合わない親友とは旅行をしない」と断言しています。
それは友情を壊さないための選択なのです。
このように考えると、友情には正解の形はなく、お互いの個性と状況に合わせてカスタマイズするべきものだと見えてきます。
ここで注目したいのが、米ノースウェスタン大学(Northwestern University)の2014年の研究です。
この研究では、感情的なニーズを1人の友人にすべて委ねるのではなく、目的別に複数の友人に分散したほうが、心の健康に良いと報告されています。
つまり、「怒りを共有する友人」「涙を共にする友人」「笑い合う友人」など、それぞれに役割を持った友情のネットワークを築いた方が、私たちはラクになれるというのです。
恋愛関係のように「オールインワン」を求めてしまうと、期待が重荷になり、相手にも負担をかけてしまいます。
友情はそれよりも、もっと柔軟で、多様であっていいのです。
そしてこうした友情観をもつなら、「年々減っていくかもしれない友人との繋がり」を維持するのにも役立ちます。
友情の形は様々だと分かっても不安になることはあるものです。
「あの友達は私に全然連絡をくれない……もう終わったのかな?」と感じたことがあるかもしれません。
しかし、フランコ博士はそうした状況に対して、「友人とは、異なるタイムラインで生きている可能性がある」という視点も与えてくれます。
博士自身も、かつては「自分ばかりが連絡している」と悩んでいたそうです。
しかし一歩引いてみたことで、後になって相手の方から連絡が来たという体験がありました。
つまり「連絡が来ない=嫌われた」ではなく、単に今は相手にその余裕がないだけかもしれません。
友情においては今すぐの返答や頻度ではなく、長期的なリズムの違いを理解することが大切なのです。
また、ある調査では、「私たちは平均して、7年ごとに友達の半分を失う」というデータも示されています。
これは人間関係における自然な流れとも言える現象です。
ライフステージが変わり、職場や住居が変われば、人との距離も変化します。
しかしそれを終わりと捉えるのではなく、変化のフェーズと受け入れることで、心は軽くなります。
たとえば、「頻繁に会っておしゃべりしていた相手」が「たまに連絡を取る人」に変わったり、「同僚だった人」が「育児について話せるママ友」に変化したりすることがあるかもしれません。
こうした形の変化は、友情を失ったわけではなく、ただ「変わっただけ」なのです。
友情の本質を距離の調整だと理解できれば、新しいフェーズへと進む勇気が湧いてくるはずです。
友情は、必ずしも「ずっと一緒にいること」ではありません。
むしろ、「離れていてもつながっていると感じられる」ことが大切なのかもしれません。
友情を長続きさせるコツは、それぞれの相手に合わせた距離感を見つけることです。
おそらくあなたの周りには、「よくおしゃべりする親友」だけでなく、「たまに会うと最高に楽しい友達」もいます。どちらも大切な友人です。
参考文献
Why Distance Can Create Intimacy in a Friendship
https://www.psychologytoday.com/us/blog/platonic-love/202507/why-distance-can-create-intimacy-in-a-friendship
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部