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2019年、アメリカだけで発生した食品廃棄物は実に6600万トン。
そのうち約6割が埋め立て処分され、温室効果ガスの発生源となっています。
こうした問題を解決するために開発されたのが、FOODres.AIプリンターです。
このプリンターは、卵の殻やコーヒーかす、バナナの皮、花の茎など、身の回りで日常的に発生する食品くずを「原材料」として活用します。
使い方は非常にシンプル。
まず、スマホにダウンロードした専用アプリで食品くずの写真を撮影すると、AIがその画像を解析して廃棄物の種類を特定します。
すると、アプリがそれに合った「レシピ」を提示してくれます。
レシピといっても食べ物ではなく、マグカップやカトラリー、コースターなど、印刷可能なオブジェクトの設計図です。
つまり、この食品廃棄物から作ることが可能なオブジェクトを提示してくれます。
またユーザーはテンプレートから選ぶことも、自分だけのカスタムデザインを作ることも可能。
さらに廃棄物の種類によって色や質感も変えられるため、仕上がりに個性が出るのも魅力です。
選ばれたアイテムに応じて、プリンターが食品くずに天然由来の添加剤を加え、バイオプラスチックペーストを生成。
3軸加熱式の押出装置によって、このペーストを希望の形に整形し、わずか1ボタンの操作で、誰でも簡単に印刷を始めることができます。
FOODres.AIプリンターの最大の特徴は「超ローカル循環型経済」の構築を目指している点です。
これは食品くずをわざわざ自治体に回収させたり、リサイクル施設に送ったりするのではなく、各家庭で“その場で”資源化して再利用するという発想です。
これにより、輸送によるCO₂排出も削減でき、地域全体の持続可能性が向上します。
しかも、使い勝手も重視されています。
3Dプリンターというと難しそうな印象がありますが、FOODres.AIはAIによるガイドがあるため、初めての人でも安心して使えます。
まさに、未来のキッチン家電といえるでしょう。
現在、MITチームはこのプリンターを一般家庭に試験導入するパイロットプロジェクトを進めており、まずはケンブリッジ市での運用からスタートしています。
プロジェクト責任者であるビル・カオ氏によれば、この取り組みによって約6800トンの食品廃棄物の削減が期待され、2000世帯以上に届けられる予定です。
さらにこの技術は、家庭用品だけでなく、将来的には食品そのものや医療用材料、人工皮膚や血管といった分野にも応用が可能とされています。
つまり、ゴミを出さずに日用品も食べ物も、さらには治療素材まで作れる時代が、すぐそこまで来ているのです。
バナナの皮がコーヒーマグになり、卵の殻がコースターになる——そんな未来が、もう現実になろうとしています。
MITのFOODres.AIプリンターは、単なる便利な機械ではありません。
今までゴミとされてきたものに価値を与え、家庭の中で「作る」喜びを広げ、そして地球環境への意識を変える力を持った社会変革の道具なのです。
食卓の隅にあるくず野菜や皮一つが、あなたの手で形を変え、新たな命を得る。
そんな生活が、これからの「当たり前」になっていくかもしれません。
参考文献
3D printer transforms food waste into coffee mugs and coasters
https://www.popsci.com/environment/3d-printer-food-waste-into-trinkets/
New 3D printer can make coffee mug from banana peels, turns food waste into useful goods
https://interestingengineering.com/innovation/3d-printer-make-coffee-mug-from-banana-peels
FOODres.AI Printer
https://www.birucao.com/foodresai
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部