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しかし実際の心臓発作は、こうした劇的な痛みよりも、「胸が重い」「押さえつけられるような圧迫感」「なんとなくおかしい」といった曖昧な違和感から始まることが少なくありません。
特に女性の場合、心臓発作の症状が男性とは異なるケースも多く、胃の不快感(胃もたれ、胸焼けなど)、首、肩、背中、あごの痛み、強い疲労感や倦怠感、吐き気やめまい、息切れや動悸などがあります。
それでも人々は「胸が激しく痛まないから大丈夫」「倒れるほどではないから様子見でいいだろう」と考えがちです。
これが、救命率を下げる重大な原因となるのです。
こうした背景を受けて、ISUとUTAの研究チームは、「一般市民がACS関連の胸痛をどのようにイメージしているか」を明らかにする調査を行いました。
研究では、単に医学的な事実ではなく、人々が頭の中で想像する”症状のストーリー”に焦点を当てたのが特徴です。
調査は、米国在住の35歳以上の成人597人を対象にオンライン調査が実施されました。
平均年齢は54歳で、医療従事者などの専門家は除外されています。
使用された質問票は「Chest Pain Conception Questionnaire(CPCQ)」という、心臓発作に関連する胸痛のイメージを調査するための標準化されたツールです。
回答者には、痛みの質、強度、苦痛度、持続時間、発生部位などについて5段階評価や選択肢を用いて答えてもらいました。
また、彼らが心臓発作についてどのような情報源から知識を得ているか(テレビCM、ニュース、家族や友人の体験、医療従事者など)についても調査されました。
調査結果は、私たちがもつ心臓発作の症状のイメージがいかに”ドラマ的”な方向に偏っているかを明らかにするものでした。
例えば、多くの参加者が「心臓発作は激しい痛み」「圧迫感や締めつけられる感覚をともなう」と回答し、その痛みが「左胸または胸の中央に集中する」と信じていました。
実際、参加者の84.3%が「左胸」を主な痛みの部位として想定しており、70%以上が「圧迫感」「締めつけ感」「絞られるような感覚」があると答えています。
一方、「胃もたれ」「胸焼け」「鈍痛」など、実際には女性によく見られる症状を選んだ人は少なく、「胃の不快感」を選択したのはわずか13%にとどまりました。
これは、女性に見られやすい心臓発作症状が、広く知られていないことを示しています。
もちろん実際に男女ともに最も多い症状は、胸痛、胸部の違和感、発汗、息切れなどであり、「男性だから」「女性だから」といった決めつけも危険です。
また、ほとんどの参加者が「心臓発作は15分以内に終わる」「突然強く起こる」と信じており、安静中の痛みよりも活動中の痛みのほうが深刻だと考えていました。
これらも偏ったイメージであり、こうした認識のずれが、”受診の遅れ”につながっているのです。
そして注目すべきは、参加者の多く(74%)が「テレビ広告やドラマ、ニュース」で心臓発作の情報を得ていたという点です。
医療従事者から直接説明を受けたことがある人は26.5%にとどまり、いかに”メディアの描写”が私たちの健康観に影響を与えているかが分かります。
しかしそのような誤ったイメージを持っていると、命に関わるサインを見逃してしまうかもしれません。
心臓発作は、必ずしも”ドラマのように”起こるわけではありません。
胸が”少し変”だと感じたその「違和感」こそが、最初のSOSかもしれないのです。
「本物の心臓発作の姿」を、私たち一人ひとりが正しく知る必要があります。
参考文献
We know the ‘Hollywood heart attack,’but it doesn’t always reflect real life
https://newatlas.com/health-wellbeing/hollywood-heart-attack-conception-real-life/
Heart attacks don’t follow a Hollywood script
https://www.uta.edu/news/news-releases/2025/07/10/heart-attacks-dont-follow-a-hollywood-script
元論文
Gender differences in the public’s conceptions of acute coronary syndrome-related chest pain
https://doi.org/10.1016/j.hrtlng.2025.04.029
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部