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そしてこの騒動が、ある“副産物”を生むことになります。
それはベテルギウスの光度の変動に注目した研究から始まりました。
ベテルギウスは約400日ごとの主要な変動とは別に、約6年周期で光がゆっくりと変化する奇妙な性質を持っていたのです。
この長期変動が、内部の活動では説明できないことから、一部の研究者たちは「近くに別の星があるのではないか」と考え始めました。
そして研究チームが、ハワイのマウナケア山にあるジェミニ望遠鏡に搭載された高精度観測装置「‘Alopeke(アロペケ)」を使い、ついにその“幻の星”を捉えることに成功。
ベテルギウスのすぐ近くに、ごく暗く小さな伴星が寄り添うように存在していたのです。
この星には「シワルハ(Siwarha)」という名が提案されています。
これはアラビア語で「彼女のブレスレット」を意味し、ベテルギウスの名前(「巨人の女の手」という意味)に関連させたものです。
シワルハは、太陽の約1.5〜1.6倍の質量を持つ、まだ若い星です。
星としての本格的な活動である水素融合を始める前段階の、いわば“生まれたての青白い星”とされています。
一方のベテルギウスはすでに寿命の終わりが近づいており、まもなく超新星爆発を迎えると予想されています。
研究者によると、この2つの星はおそらく同じタイミングで誕生した「双子星」でありながら、片方はすでに人生の終盤、もう片方はまだ歩み出してもいないという、奇妙な時間差を抱えた運命にあるというのです。
さらに恐ろしいのは、2つの星の関係が今後ますます緊迫していく可能性が高いという点です。
研究者たちによれば、重力の相互作用――いわゆる潮汐力――により、シワルハは次第にベテルギウスへと引き寄せられ、やがては衝突あるいは呑み込まれる運命にあるというのです。
その“終末”は今から1万年以内に訪れると予測されています。
宇宙のスケールで見れば、ほんの一瞬の出来事です。
爆発によってベテルギウスが中性子星やブラックホールになれば、シワルハはその高エネルギー環境に巻き込まれ、生き残ることは難しいでしょう。
このように、静かな夜空に輝く星々の背後では、想像を絶するような重力のダンスと悲劇のドラマが密かに繰り広げられているのです。
参考文献
It’s Official: Betelgeuse Has a Binary ‘Twin’, And It’s Already Doomed
https://www.sciencealert.com/its-official-betelgeuse-has-a-binary-twin-and-its-already-doomed
Betelgeuse and Its Stellar Companion in Orion
https://noirlab.edu/public/images/noirlab2523b/
Betelgeuse’s companion star finally located after years of debate
https://www.popsci.com/science/betelgeuse-companion-star/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部