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実行機能とは、私たちが日々の生活を送るための“司令塔”のような働きをする脳の機能のことです。
たとえば、計画を立てたり、感情をコントロールしたり、注意を持続させたり、臨機応変に対応したりするなど、意思決定や行動の切り替えに不可欠な能力です。
この実行機能がうまく働かないと、ただ机に向かっているだけで進まない、あるいは思考が止まる、といった状態に陥ってしまいます。
しかも、私たちは知らぬ間にこの機能に“無用な負荷”をかけているのです。
ケスティ氏は、実行機能を削り、人生をハードモードにする4つの要素と調整方法を教えています。
1つ目の要素はは水分不足です。
2018年の研究(Wittbrodt &Millard-Stafford)によると、軽度の脱水状態にある人々は、実行機能の一種である「認知柔軟性」のテストにおいてミスが12%も増加しました。
認知柔軟性とは、状況に応じて思考や行動を切り替える能力のことです。
そして水分補給すれば、この機能はすぐに正常に戻りました。
つまり、少し水分が足りないだけで、思考の柔軟性が大きく下がってしまうと分かります。
こまめな水分補給という小さな習慣が、脳機能をいつも万全の状態にしてくれます。
2つ目の要素は環境です。
企業が飲食店のデザインや照明を工夫しているのは、それによってお客の行動や滞在時間、感想が変化するからです。
たとえば、あえて硬めの椅子を設置することで客が長居しないようにし、回転率を高めている飲食店もあります。
同様に、私たちの作業環境も脳の状態に大きな影響を与えます。
当然ですが、集中したいときは静かな場所を選びましょう。
掃除をするときはアップテンポの音楽を流して気分を高める方法も効果的です。
また、自分が集中したい時には、周囲に同じく集中している人がいる環境に行くこともできます。
実際に多くの学生が、他の人々と共に自習室で勉強することで集中力が高まると感じています。
このように、環境を脳に最適化するだけで、作業の難易度は格段に下がるのです。
実行機能を低下させる要素は他にもあります。
3つ目の要素は身体のニーズです。
「何も考えられない……」と感じる時、多くの場合、体が基本的なニーズを満たしていません。
睡眠不足や空腹、運動不足などは、実行機能に大きな負担をかけます。
だからこそ、実行機能が低下するパターンを見つけることが大切です。
たとえば、「何か文章を書く作業をしている時、手を動かす代わりに文章をじっと見つめる時間が増えたなら、おそらく空腹で頭が働いていないのだ」といった自分のパターンを探してみてください。
そうしたパターンを理解できたなら、職場の引き出しに飲み物やスナックを常備したり、睡眠の質を記録したりと、対策を立てられるようになります。
4つ目の要素は気を散らすものです。
「使っていないから関係ない」と思っていませんか?
実は、スマホが視界にあるだけで、脳は“監視のリソース”を割いているのです。
ある研究では、机の上にスマホがあるだけで、認知テストの成績が下がることが示されています。
また、マルチタスクという考え方も誤解されています。
マルチタスクできる人は「仕事ができる」といったイメージを持っているかもしれません。
しかし脳は毎回、切り替えのたびにエネルギーを消費しており、それが注意力を削っているのです。
だからこそ、1つの作業に集中する、スマホは別室に置く、不要なブラウザのタブは閉じる、作業中に視界に誘惑を置かないといった環境設計が重要になります。
このようにして、脳に余計な負荷をかけずに済むようにすることが、人生のハードモードを避けるカギになります。
『ELDEN RING』で10回やられても「次こそは!」と挑めるのは、その失敗がゲーム内で完結しているからです。
しかし、実生活での失敗やストレスは、確実に明日の自分に影響します。
だからこそ、人生ではイージーモードで進めることが大切です。
それは怠けるという意味ではなく、脳のポテンシャルを最大限引き出すための工夫をするということです。
水を飲むこと。 静かな環境を整えること。体の声に耳を傾けること。 スマホを遠ざけること。
こうした小さな習慣が、未来の自分の助けになるのです。
参考文献
Stop Playing on Hard Mode
https://www.psychologytoday.com/us/blog/brain-tools-school/202507/stop-playing-on-hard-mode
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部