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この研究では、破局を「人生で特につらかった経験」と答えた18歳から25歳の若者42人に対して、脳の働きを調べるfMRI(機能的磁気共鳴画像)検査を行いました。
彼らには、かつての恋人の写真を見せたり、別れを思い出させるような画像を見せたりして、そのとき脳がどう反応するかを測定したのです。
すると驚くべきことに、記憶を司る「海馬」や、恐怖や不安に反応する「扁桃体(へんとうたい)」が強く反応していたのです。
実はこの2つの脳の部位は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者でも活性化が確認される場所です。
つまり、脳は恋人との破局を、交通事故や暴力体験のような「トラウマ」として受け止めている可能性があるということになります。
しかも、反応の強さには個人差がありました。
たとえば、
・自分から別れを切り出していない人
・相手に裏切られたと感じている人
・まだ元恋人に好意を持っている人
こうした人ほど、脳の反応がより強くなっていたのです。
このことから「自分は捨てられた」と感じている人ほど、失恋によるダメージが深く、脳に強く刻まれるということがわかります。
では、こうした脳の変化が私たちの心にどんな影響を与えるのでしょうか。
研究チームによると、破局のあとには、うつや不安といった感情だけでなく、人を信じる力や、自分に対する価値観にも大きな揺らぎが生まれるそうです。
「もう誰も信じられない」「自分なんて愛される価値がない」――そんな思いが頭をよぎった経験はありませんか?
これは決して“甘え”ではありません。
脳が実際にトラウマのような反応をしているのです。
特に若年期は「自分とは何か」を模索する時期であり、このタイミングでの恋愛体験は、自己形成や人生観に大きな影響を与えやすいのです。
もちろん、すべての破局がトラウマになるわけではありません。
むしろチームは、破局後に成長や新しい気づきを得る人も多いと指摘しています。
実際、同じように失恋を経験しても、「次こそはもっと対等な関係を築きたい」「自分の気持ちを大切にしたい」といった前向きな変化を感じる人もいます。
私たちは「いつか忘れられる」「前を向こう」と励まし合います。
でも、ときにはそれがプレッシャーになってしまうこともあります。
今回の研究は「なぜこんなにもつらいのか」「なぜ前に進めないのか」という問いに、脳科学の視点から答えてくれます。
失恋は単なる「感情の問題」ではありません。
記憶、感情、恐怖、愛――それらすべてが脳内で複雑に絡み合った結果、私たちは「心が痛い」と感じているのです。
「ただの恋」なんて、誰にも言えません。
だからこそ、つらさを感じたときには、自分を責めずに、時間をかけて心を癒すことが大切です。
ときにはカウンセリングや支援も視野に入れて、自分をいたわることが大切でしょう。
恋の終わりは、あなたが壊れた証ではありません。
むしろそれは、あなたが誰かを本気で愛した証なのです。
参考文献
Romantic breakups can trigger trauma-like brain activity in young adults
https://www.psypost.org/romantic-breakups-can-trigger-trauma-like-brain-activity-in-young-adults/
元論文
Hippocampus, amygdala, and insula activation in response to romantic relationship dissolution stimuli: A case-case-control fMRI study on emerging adult students
https://doi.org/10.1016/j.jad.2024.04.059
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部