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たとえば、
・触角のような形(偽触角)
・目玉に見える斑点
・頭部のような輪郭
・色彩のコントラスト
・線が一点に集まるような収束線
といった特徴が組み合わさることで、あたかも“後ろにもうひとつの頭がある”かのように見えるのです。
これにより、捕食者は頭だと思って狙った場所が実は後翅だった…という「見事な肩透かし」を食らうことになります。
この戦略のすごいところは、命にかかわる本物の頭を含む胴体部分を守りながら、羽の一部が裂けるだけで済むという点です。
たとえ襲われたとしても致命傷を避けられるため、生き延びて子孫を残すチャンスが格段に上がるのです。
今回の研究では、インターネット上の画像データベースや系統樹解析を用いて、928種のチョウに見られる「偽の頭」の形質を精密に分析しました。
注目したのは、前述の5つの形質——偽触角、目立つ斑点、派手な色彩、頭のような輪郭、収束線——です。
これらがどのように進化してきたのかを系統樹にもとづいて調べたところ、驚くべき事実が明らかになりました。
なんと「収束線」を除く4つの形質は、それぞれがバラバラに進化したのではなく、互いに連動して進化していたのです。
つまり、1つだけ進化したのでは機能せず、複数の特徴が“セット”として進化していったということになります。
このような連動的な進化は「適応コンステレーション」と呼ばれます。
いわば「騙すための総合演出」が、長い時間をかけてチョウの中で洗練されてきたというわけです。
また、体の大きさ(翼長)と“偽の頭”の発達には関連がなく、大型であることが必ずしも発達度合いと関係していないことも確認されました。
さらに、これらの形質は単に一方向に進化したのではなく、必要に応じて何度も獲得されたり失われたりしてきたと考えられています。
「もうひとつの頭」は、まさに進化の産んだ“偽装の芸術”です。
シジミチョウの多くの種が、自らの命を守るためにこの戦略を発展させ、複数の特徴を組み合わせることで精巧な“ニセモノ”を作り上げてきました。
その裏には、捕食者と被食者の終わりなき進化的駆け引きがあります。
相手を欺く巧妙さを持つ生き物こそ、次の世代へと生き延びる――その原則が、チョウの「2つ目の頭」に刻み込まれているのです。
参考文献
Many Butterflies Have a Second ‘Head’– This Could Be Why
https://www.sciencealert.com/many-butterflies-have-a-second-head-this-could-be-why
元論文
Correlated evolution of multiple traits gives butterflies a false head
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0900
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部