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国連開発計画(UNDP)は「このままでは2100年までに首都フナフティの島の95%が満潮時に海に沈む」と警告しています。
さらに海水が地下水に浸透し、農業用水や飲料水の塩害も進んでいます。
住民たちはすでに畑を高床にするなどの対策を講じていますが、「土地そのものが消える」という現実には抗えません。
これらの事態を受けて、ツバル政府は「もはや“気候変動”は抽象的な脅威ではなく、国家の存続に関わる現実」と捉えるようになりました。
そして2023年、ある画期的な条約が結ばれることになります。
2023年、ツバル政府とオーストラリア政府の間で締結された「ファレピリ連携条約(Australia-Tuvalu Falepili Union)」は、世界で初めて、気候変動を理由に「国家全体」の移住を合法的に保障する制度となりました。
この条約により、ツバル国民は年間280人ずつ、抽選によってオーストラリアへ移住できる道が開かれました。
移住者には教育・医療・就労の権利がオーストラリア国民と同等に与えられ、条件を満たせば市民権の取得も可能です。
また、ビザの保有者に移住の義務はなく、自由に帰国することも認められています。
最初の抽選受付は2025年6月16日に開始し、7月18日に締め切られました。
オーストラリア政府の発表によると、すでに5100人以上―ツバル国民の半数が応募しており、この移住計画への関心と切実さが浮き彫りとなりました。
しかしこの制度には課題もあります。
年間280人という上限では、仮にフルで移住が続いたとしても全員の移動には数十年を要します。
またツバルの人口が減り続ければ、国家としての存続――政治的独立、文化、国際的認知などが失われる可能性もあります。
ツバルの事例は、私たちに新たな問いを突きつけています。
「国家とは土地に根ざしたものなのか、それとも人々と文化こそが国家なのか」という根源的な問題です。
もしもツバル国民の大半が移住し、国土が海に沈んだとしても、ツバルという「国」は存在し続けられるのでしょうか?
この問いに世界がどう答えるかは、今後の気候変動時代における国際社会のあり方そのものを左右するかもしれません。
参考文献
Tuvalu residents prepare for world’s first planned migration of an entire nation — and climate change is to blame
https://www.livescience.com/planet-earth/climate-change/tuvalu-residents-prepare-for-worlds-first-planned-migration-of-an-entire-nation-and-climate-change-is-to-blame
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部