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医師の操作を受けることなく、手術中に遭遇する予期せぬ状況にも自ら対応・修正しながら手術を完了する能力を備えています。
このSRT-HはChatGPTのような言語モデルで手術内容を理解しながら、映像ベースの模倣学習によって動作制御もこなせます。
このシステムは、従来の「シナリオ通りにしか動けない手術ロボット」とは一線を画します。
柔軟に状況を把握し、手術の流れを逐次的かつ動的に構成し直すことが可能なのです。
また、トレーニングには実際の手術映像を使った「模倣学習(Imitation Learning)」を活用し、人間の熟練医師の動作や判断をそのまま取り込んでいます。
そして今回、SRT-Hの実力を示すための実験対象となったのは、リアルな人型モデル(人間ではありません)です。
この臓器モデルを用いて、研究チームは胆嚢摘出手術(cholecystectomy)におけるロボットの自律能力を検証しました。
手術には全部で17の工程が含まれており、各ステップでは胆管や動脈の識別、クリップの正確な配置、ハサミによる切除など、高度な操作が求められます。
※次項には実際の手術画像があります。苦手な方はご注意ください。
SRT-Hは、合計8つの異なる胆嚢モデルに対し、すべての手術を人間の介入なしで100%成功させました。
特筆すべきは、操作の精密さだけでなく、判断の柔軟さです。
手術中に臓器の配置や形状が予想と異なっていた場合でも、SRT-Hは自身の判断で処置を調整。
事前プログラムではなく、その場で状況を見て最適な動作を選び出す力を示しました。
これは「決められた手順をなぞる機械」ではなく、「判断して行動する存在」として、AIが新しいステージに進んだ証拠です。
さらに注目すべきは、SRT-Hが医療スタッフの音声指示に反応できる点です。
ChatGPTと同じ大規模言語モデルを利用することで、ロボットが医療現場で交わされる言葉を理解し、それに応じた行動を選ぶことが可能になっているのです。
この点、研究チームは次のように述べています。
「ロボとは初めて実物そっくりの患者を相手に手術を行いました。
手術中は医師チームからの音声指示に反応し、学習しました。
まるで指導医と共に作業する新人外科医のようでした」
こうした成果は、「誤差に弱い」「不測の事態に対応できない」とされてきた従来のロボット外科の限界を打ち破るものであり、手術ロボット分野における重大なターニングポイントとなるでしょう。
もちろん、この技術はまだ人体での使用には至っていません。
しかし研究チームは、今後10年以内の臨床導入を目指すとしています。
また、将来的には胆嚢摘出にとどまらず、複雑な外科手術や異なる部位への応用も視野に入れ、SRT-Hのスキルをさらに多様化させる予定です。
この研究は、医師不足や医療格差が深刻化する未来において、ロボットが人間の代わりに命を救う選択肢となり得ることを示しています。
将来あなたが手術を受けるのは、ロボット外科医からかもしれません。
参考文献
Autonomous robot surgeon removes organs with 100% success rate
https://newatlas.com/robotics/worlds-first-robot-surgery/
Robot performs first realistic surgery without human help
https://hub.jhu.edu/2025/07/09/robot-performs-first-realistic-surgery-without-human-help/
元論文
SRT-H: A hierarchical framework for autonomous surgery via language-conditioned imitation learning
https://doi.org/10.1126/scirobotics.adt5254
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部