風力発電といえば、巨大なブレードをもつ風車型が一般的ですが、そんな常識を覆すような奇妙な風力発電機が登場しました。


この発電機を開発中なのは、Airloom Energyというアメリカ・ワイオミング州のスタートアップ企業です。


彼らは「レール上を翼がグルグル走る」奇妙なの風力タービンを用い、低コストかつ迅速に導入できる新たな風力発電の形を模索しています。


そして2025年夏、Airloomはついに実用規模のタービンの建設を開始しました。




目次



  • レール上を複数の「翼」がグルグル走る!Airloom社の「奇妙な風力発電機」
  • 「奇妙な風力発電機」実用規模のマシンが建設開始

レール上を複数の「翼」がグルグル走る!Airloom社の「奇妙な風力発電機」


一般的な風力発電機 / Credit:Canva

現在広く使われている風力発電機のほとんどは、いわゆる「風車型」です。


高いタワーの上に巨大なブレード(羽根)を設置し、風の力で回転させて発電する仕組みで、海上に設置されるものでは全高が300メートルを超えることもあります。


この従来型の風力発電のメリットは、空気の流れが安定する高高度で効率よく風を捉えられる点です。


とくに洋上風力では安定した風を利用できるため、大規模な電力を長期にわたり供給できます。


一方で、その巨大さゆえに建設には数年を要し、巨大クレーンや専用船など特殊な設備が必要となります。


また、設置や保守には高額な費用がかかり、地域によっては景観や鳥類への影響も懸念されます。


こうした問題を踏まえて登場したのが、Airloomの提案する新型風力発電機です。


楕円型レーンに複数のブレードが付いた奇妙な風力発電機 / Credit:Airloom Energy

Airloomの風力発電機は、まず見た目からして、一般的な風車ではありません。


楕円形の軌道(トラック)をポールで支え、その軌道上を33フィート(約10メートル)の垂直な翼がケーブルにつながれて移動します。


これらの翼は風の方向に応じて角度を変えながらトラック上を走行し、ケーブルの直線的な動きを発電機で電力に変換する仕組みです。


設置高さは約25メートルで、空高くそびえる従来型とは対照的に、比較的低高度な構造です。


小型でモジュール式の設計により、製造・輸送・設置のすべてが簡素化され、コスト効率に優れているとされています。


小規模実験の様子 / Credit:Airloom Energy(YouTube)

商用モデルとしては2.5MW級の出力が想定されており、これは2千世帯以上の電力をまかなう規模です。


さらに驚くべきことに、この発電システムは1台のトラックで運搬可能で、設置にも大型クレーンを必要としないとされています。


このアイデアは長年、小規模な試験のみが実施されてきましたが、ついに実用規模の開発が始まりました。


「奇妙な風力発電機」実用規模のマシンが建設開始


実用規模の試験機の開発に着手 / Credit:Airloom Energy

2025年6月、Airloomはワイオミング州ロックリバー近郊において、新型風力発電機の初のユーティリティスケール試験施設の建設に着手しました。


ここでは、出力パワーカーブや効率性、保守性といった技術的側面が検証される予定です。


この試験施設は将来的に拡張される可能性があり、商用デモンストレーションは2027年に開始される計画です。


出資者には、ビル・ゲイツが主導するBreakthrough Energy Venturesなどが名を連ねており、技術革新に対する期待の高さがうかがえます。


従来の風力発電機と比べて、全コストが低下する / Credit:Airloom Energy

Airloomによれば、設置コストは従来型の約10分の1であり、土地を含めた風力発電所全体のコストは約4分の1になるとされています。


そして、設置・工事・材料費などの初期コスト、運転・維持のコスト、設備の廃棄コストなど、全コストを生涯発電量で割ることで算出される「LCOE(均等化発電原価)」は、従来の風力発電の約3分の1に抑えられると試算されています。


実現すれば風力発電の経済性に新たな可能性をもたらすことでしょう。


とはいえ、現時点では商用段階には至っておらず、懐疑的な意見も根強く存在します。


とくに、実機の信頼性、長期耐久性、大規模展開時のコスト安定性など、多くの技術的・運用的課題が残されています。


また、今回の試験機が50kW、250kW、あるいは2.5MW級のどのモデルに該当するかは明かされておらず、透明性の面でも不安があります。


新しいタイプの風力発電機が果たして革命を起こすか / Credit:Airloom Energy

それでも現在、電力需要の高まりとともに、柔軟かつ迅速に導入できる小型風力発電の存在価値は増しています。


とくに災害時のバックアップ電源や、高さ制限のある都市部、軍事・空港施設への適用が期待されており、その応用範囲の広さが注目されています。


だからこそ、この風変わりな発電機がどうなるのか、 今後の行方が気になります。



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参考文献

Airloom’s bizarre ground-hugging wind turbine gets ‘utility-scale’pilot
https://newatlas.com/energy/airloom-wind-turbine-pilot/

Airloom Energy Takes Critical Step for the Future of U.S. Energy Independence, Resilience and Security with New Pilot Site
https://www.globenewswire.com/news-release/2025/06/26/3106140/0/en/Airloom-Energy-Takes-Critical-Step-for-the-Future-of-U-S-Energy-Independence-Resilience-and-Security-with-New-Pilot-Site.html#

The next era of resilient power.
https://www.airloom.energy/

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 【どうやって発電?】「レール上を翼がグルグル走る」奇妙な風力発電が登場