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一般的な感覚では、砂糖やクリームの量が違えば健康への影響も変わりそうだと感じますが、これまでの研究の多くでは、この違いはきちんと区別されてきませんでした。
その理由のひとつは、食事調査データの限界です。
大規模な健康調査では、さまざまな項目について広く参加者から聴取するために「あなたは1日に何杯のコーヒーを飲みますか?」といったシンプルな質問票が使われます。その中で「砂糖を何グラム入れますか?」「クリームの種類は?」といった詳細まで含むのは難しいのです。
さらに、データを分析する際も「ブラック派」「加糖派」「ミルク派」と細かく分類すると、それぞれのグループの人数が少なくなり、統計的に意味のある結果が得られにくくなります。
また、過去の研究の焦点は、カフェインの摂取量やコーヒーの杯数と健康との関連に集中しており、「飲み方の違い」にはあまり注目が集まっていなかったという事情もあります。
こうした背景のもとで、これまで「コーヒー」として一括りにされてきたデータに対し、今回の研究はあらためて「ブラックなのか、ミルクや砂糖入りの甘いコーヒーなのか」を詳細に分析した点が、大きな特徴となっています。
タフツ大学の研究チームは、米国の大規模な健康調査「NHANES(エヌヘインズ)」のデータを使い、1999年から2018年の間に収集された約4万6千人分の情報をもとに、コーヒーの摂取量と飲み方(添加物の有無)と、死亡リスクとの関係を20年近くにわたって追跡しました。
NHANESは、米国疾病予防管理センター(CDC)が数年ごとに実施している大規模調査で、食事内容をきわめて詳細に記録することで知られています。
とくに「24時間食事リコール法(24-hour dietary recall)」という手法では、被験者に対して「昨日の朝食から夜の間に食べたすべての食べ物・飲み物」を、食材の種類、調理法、分量、添加物まですべて思い出して申告してもらいます。
これにより、各参加者がコーヒーに加えていた砂糖や脂肪(ミルク、クリームなど)の量を詳細に評価することが可能となり、これまで一括りにされてきた「コーヒー」を、ようやく細かく分けて評価できるようになったのです。
そこで今回の研究では、「ブラックコーヒー」と「加糖・加脂肪コーヒー(つまり砂糖やクリーム入り)」を明確に分けて、その健康効果の違いを調べました。
そして、誰がどのような種類のコーヒーを、どの時間帯に、どれくらい飲んでいたのかを細かく分類し、それが将来の死亡リスクとどう関係していたかを分析したのです。
研究の結果、1日に1~3杯のコーヒーを飲む人は、まったく飲まない人に比べて死亡リスクが14~17%低いことがわかりました。
とくに、朝にブラックコーヒーを飲むタイプの人に、その傾向は強く見られました。
こうした点はこれまでのコーヒーに関する研究報告と一致しています。
しかし、飲み方を細かく分類すると、「コーヒーにたっぷり砂糖やクリームを加えている人たち」には、そのような健康効果はほとんど見られなかったのです。
加糖・加脂肪のコーヒーを多く飲んでいる人たちは、コーヒーを飲んでいない人と同じか、あるいはそれ以上の死亡リスクを抱えている可能性すら示唆されました。
研究者たちは「ブラックコーヒー」と「砂糖やクリーム入りのコーヒー」の効果に違いが出た理由として、砂糖や脂肪が健康に悪影響を与えるため、コーヒーの良い効果を帳消しにしてしまう可能性があると述べています。
たとえば、砂糖の過剰摂取はインスリン抵抗性を悪化させ、糖尿病のリスクを上げることが知られています。
また、クリームなどの飽和脂肪は心臓病の要因になりやすく、慢性炎症を引き起こす可能性もあります。
つまり、「コーヒーが体にいい」という話の中には、“何を一緒に摂っているか”という視点がこれからもっと重要になるというわけです。
もうひとつは、ブラックコーヒーを好む人が、もともと健康意識が高く、食生活や運動習慣も良好である場合が多いという“交絡要因”です。
ただ、それを加味してもなお、ブラックコーヒーの飲用が健康に良いという結果は統計的に明確でした。
また興味深いのは、飲む「時間帯」による差も確認された点です。
午前(午前4時~正午)に集中して飲む「朝型」のコーヒー習慣は、死亡リスクの低下と強く関連していましたが、午後から夜にかけてダラダラと飲む「全日型」では、その効果は見られませんでした。
つまり、「ブラックで」「朝に」「1~3杯」飲むという組み合わせが、健康へのメリットを最大化するという結果になったのです。
この研究から得られる教訓は、「すべてのコーヒーが体に良いわけではない」ということです。
ブラックで飲むなら、コーヒーは長生きや心臓の健康に貢献してくれるかもしれませんが、砂糖やミルク、クリームをたっぷり入れたり、デザートとともに飲むコーヒーでは、その恩恵は期待できないどころか、健康を損なうリスクがあるのです。
毎朝のカフェラテが習慣になっている人にとっては、ちょっと耳が痛いかもしれません。
しかし、健康を意識するならば、まずは砂糖の量を減らしてみることから始めてみるのはいかがでしょうか。
「せっかく飲むなら、意味のある一杯を」
この研究は、そんなシンプルだけど大切なことを教えてくれているのかもしれません。
参考文献
Hold the Cream and Sugar: Black Coffee Linked to Lower Risk of Death
https://now.tufts.edu/2025/06/16/hold-cream-and-sugar-black-coffee-linked-lower-risk-death
元論文
Coffee Consumption and Mortality among United States Adults: A Prospective Cohort Study
https://doi.org/10.1016/j.tjnut.2025.05.004
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部