1916年に発見された化石、「ジュラ紀の新種魚竜」と判明！
100年以上前に釣り人が偶然見つけた古びた骨。その正体が、ついに明らかになったようです。
カナダ・ブリティッシュコロンビア州で1916年に発見された化石が、まったく新しい属と種に属する魚竜であることが米ニューヨーク州立大学ブロックポート校（SUNY）の最新研究で判明しました。
魚竜は太古の海を泳いでいた大型の海洋爬虫類で、今回の新種は「フェルナタトル・プレンティセイ（Fernatator prenticei）」と命名されています。
研究の詳細は2025年6月の学術誌『Paludicola』に掲載されました。
目次
- 100年以上前に発見された化石
- 新種の特徴とは？
100年以上前に発見された化石
この新種魚竜の化石が見つかったのは、1916年の夏のこと。
当時釣りをしていたT・プレンティス氏が、カナダ西部のエルク川で偶然に奇妙な骨のかけらを見つけました。
その後、地元の炭鉱会社の手によって収集・展示され、最終的にカナダ地質調査所の古生物学者C.M.スターンバーグによって回収されています。
こちらは発見当時の写真。
向かって右側がT.プレンティス氏で、左側は炭鉱会社のゼネラル・マネージャーであるW.R.ウィルソン氏です。
しかしその後長らく、この標本は学術的な分析から外れたまま忘れられていました。
再び注目されたのは1990年代になってからです。
地元住民で古生物に詳しいR.J.モリス氏が、かつての新聞写真を手がかりに発掘現場を再発見したのです。
そして今回、国際研究チームがこの標本「CMNFV 40398」を再調査し、保存状態はやや悪いながらも、頭骨や脊椎、肩帯などに他のどの魚竜とも異なる特徴があることを確認しました。
その結果、この標本は既知のどの属にも当てはまらず、全く新しい魚竜として100年以上の時を経て科学的に記載されたのです。
新種の特徴とは？
新種魚竜「フェルナタトル・プレンティセイ」は体長およそ3.5〜4メートルの中型魚竜で、見た目はイルカのような姿をしていたと考えられます。
本種の最大の特徴は、頭骨の構造にあります。
眼の後ろにある「後眼窩骨」が棒状に高く伸びており、これは多くの魚竜で見られる三日月型の骨とは明確に異なっていました。
また「頬骨」が直線的で非常に短く、目の周囲をほとんど囲まないという点でも異質でした。
さらに上顎骨の前突起が細く長く、鼻孔のかなり前方まで突き出していること、烏口骨に深い切れ込みがあることなど、いくつもの形態的な特徴が組み合わさっていました。
これらは他のいくつかの魚竜と部分的に似てはいるものの、完全に一致するものはなく、新属新種としての妥当性が認められたのです。
標本は、ジュラ紀初期にあたる約1億9000万年前の地層から発見されました。
この時代の北アメリカにおける魚竜の化石記録は極めて乏しく、今回の発見はカナダで知られる2番目の魚竜分類群という貴重な例となります。
この発見は、単なる新種の報告にとどまりません。
100年以上も誰にも注目されずに眠っていた化石が、研究者の執念と再発見の偶然によって再び歴史の表舞台に立ちました。
失われかけた発見が、100年後に新たな科学的意味を持つ――それはまるで、海底で化石となった魚竜が、時を越えて私たちに「忘れないで」と語りかけているかのようです。
参考文献
Paleontologists Identify Fossil from British Columbia as Early Jurassic Ichthyosaur
https://www.sci.news/paleontology/fernatator-prenticei-13992.html
元論文
The most complete Early Jurassic ichthyosaur from North America
https://www.researchgate.net/publication/392596228_The_most_complete_Early_Jurassic_ichthyosaur_from_North_America
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部