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これらの多くは、ボートや泳ぐ人にクジラが近づき、泡のリングを吹き出すというものでした。
特に注目すべきは、リングの発生時にクジラがまったく攻撃的な様子を見せなかったことです。
尾で海面をたたいたり、大きな泡のカーテンを作ったりするような威嚇行動は見られず、クジラたちは穏やかに、むしろ楽しんでいるかのように振る舞っていました。
多くのケースでは、クジラはボートや人間に1体長(約13メートル)以内まで自発的に接近しており、ある例では泡のリングを人の真下で吹き出し、その泡が水面に浮かび上がって泳いでいる人を包み込むように広がったそうです。
まるで「これ、見てる?」とでも言いたげなパフォーマンスです。
この研究は単なる海洋生物学の枠を超え、地球外知的生命体(ETI)を探査するSETI(セティ)研究所によって支援されています。
なぜクジラの泡が宇宙人の研究に関係するのでしょうか?
その鍵は「非言語的コミュニケーション」への洞察です。
SETIの研究者ローレンス・ドイル博士はこう述べています。
「私たちは、知的生命体が言語や信号で意思を示すことを前提に宇宙を探索しています。では地球上の非人類の知性――たとえばクジラたちは、どうやってその意思を示すのでしょうか?」
ドローンによる約5000回の無人観察ではバブルリングの事例は一度も記録されず、人間の存在が刺激となっている可能性が示唆されました。
つまり、クジラたちは「誰かが見ている」ときに、わざわざ泡の輪を作っているかもしれないのです。
これが偶然でなく、ある種の“表現行動”であれば、私たちはまさに異種間コミュニケーションの入り口に立っているのかもしれません。
しかもクジラのバブルリング生成行動には“遊び”の要素が強く、過去の研究では「遊び」は知性の証とされてきました。
水面近くでの回転、尾のゆっくりした動き、横転しながらリングを吹く様子など、多くの行動は「今すぐに役立つ目的がない」という意味で“遊び”に分類されるものです。
これらが、互いに鏡のように動作を合わせながら展開されていることもあり、単なる衝動的な行動とは思えない巧みさが見てとれます。
SETIの研究者たちは、今後この泡のリングに模した人工バブル装置を用いて「クジラとのやりとり」を試みる計画も立てています。
これは、宇宙人との交信を模した“地球内SETI実験”とも言える試みです。
参考文献
WhaleSETI: Curious Humpback Whales Approach Humans and Blow Bubble “Smoke” Rings
https://www.seti.org/press-release/whaleseti-curious-humpback-whales-approach-humans-and-blow-bubble-smoke-rings
元論文
Humpback Whales Blow Poloidal Vortex Bubble Rings
https://doi.org/10.1111/mms.70026
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部