2025年6月1日、ウクライナは数十機の攻撃用ドローンをトラックでロシア国内に密輸。

複数の空軍基地を攻撃し、41機もの航空機に損傷または壊滅的な被害を与えました。

その被害総額は最大で70億ドルに上るともいわれています。

今や戦争でドローンの存在は欠かせません。

その進化は今まさにウクライナとロシアの戦争で生じており、ドローンvsジャミングのイタチごっこが続いています。

そしてそのイタチごっこは新たなタイプのドローンを次々に生み出しています。

戦場の最前線で行われているこの技術革新は、単なる軍事技術にとどまらず、現代戦争の倫理や戦術のあり方を大きく揺さぶっています。

目次

  • ドローンvsジャミングのイタチごっこが生み出す「画像認識ドローン」
  • 対抗策なし!?ロシアの新兵器「光ファイバー式ドローン」

ドローンvsジャミングのイタチごっこが生み出す「画像認識ドローン」

2022年以降、ウクライナは圧倒的な火力を誇るロシア軍に対抗するため、「安くて大量に使えるドローン兵器」を積極的に導入してきました。

【衝撃の破壊力】爆弾を積んで特攻する「爆弾ドローン」が登場

たとえば、ドローンに爆薬を積んで敵陣に突っ込ませる、”自爆ドローン”は、開戦当初からすでに使用されており、今や戦場の常識です。

ドローンによる攻撃は、伝統的な砲撃や空爆よりもコストパフォーマンスがはるかに高いのです。

ドローンはコストパフォーマンスの良い兵器 / Credit:KrattWorks(YouTube)

最近では、1機あたり数千万ドルもするプレデターやリーパーの代わりに、1機数百ドルの市販ドローンを大量に購入し、殺傷力の高い兵器へと改造されています

このようなドローンが意味するのは、「高額なミサイルより、安価でスマートなドローンの方が戦争では効果的」という事実です。

ウクライナの企業Kvertusのセリイ・スコリク氏は、こう語っています。

ミサイル1発の価値はおそらく100万ドルで、殺せるのはせいぜい20人程度です。

しかし同じ費用で1万機のドローンを買って1機につき手榴弾を4つ搭載すれば、2000人を殺すか、戦車200両を破壊できるかもしれません

まさにドローンは、現代の銃弾と同じく、効率の良い人殺しの”消耗品”となったのです。

ある調査によると、進行中の紛争における死傷者の70%はドローンによるものだというのだから驚きです。

しかし、ロシアも黙ってやられるわけではありません。

彼らはドローンの無線やGPSを妨害するジャミング(妨害電波)やスプーフィング(偽の位置情報を送る電子戦)を多用し、1ヶ月あたり最大1万機ものドローンを無力化してきたようです。

戦場でのドローンは消耗品になり、ドローン技術とジャミング技術は常に改良を重ねて相手の上をいかなければなりません。

ジャミングがあっても画像認識で対応する新ドローン / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

この”イタチごっこ”の中で開発されたのは、AIによる視覚ナビゲーションを採用した画像認識ドローンです。

機体下部のカメラがランドマークや地上の風景(特定の目印)をリアルタイムで解析。

GPSが完全に妨害されている状態でも「自分の位置」や目標を判断して航行できます。

さらに、複数の無線帯域を使って通信を切り替えるなど、最先端の電子戦対策も施されています。

一方でロシア側も新しいタイプのドローンを導入しています。

対抗策なし!?ロシアの新兵器「光ファイバー式ドローン」

ウクライナのドローン革新に対し、ロシアが打ち出したのが光ファイバー式ドローンです。

これは、ドローンに極細の光ファイバーケーブルをつなげて飛行させるという驚きのアイデアです。

ケーブルを通じて操作するので、ジャミングが一切通用しません。

まるで凧のように、ドローンが光の糸で操られているのです。

光ファイバー式ドローンは、現状最強の対ジャミング性能を誇る / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

この技術によって、ドローンは20キロ以上離れた場所まで安全に飛ばせるようになりました。

ウクライナ側も光ファイバー方式を試しましたが、ドローンより高価なケーブル代、重量増による機能制限などの理由から、採用は限定的です。

ウクライナのドローン企業Hulessのヴァディム・ブルキン氏は、「今のところ、光ファイバー式ドローンに対する防御策は存在しません」と語っています。

ではウクライナはどうするのでしょうか?

彼らは完全自律型ドローンに未来を見出しています。

将来的には、攻撃地点だけ人間が決め、ターゲット選定はドローンが行うというのです。

これは、殺すか否かをAIが判断する時代の入り口を意味しています。

戦争と共に「人を殺すドローン技術」が急速に進化しています。

「対ドローン・ジャミング」「目で見て飛ぶAIドローン」「光ファイバーでつながれたアンチジャミングドローン」「完全自律型ドローン」

これらは戦争の形を変えるだけでなく、戦争をより安価で迅速、そして無慈悲なものへと変貌させています。

全ての画像を見る

参考文献

How Ukraine’s Killer Drones Are Beating Russian Jamming
https://spectrum.ieee.org/ukraine-killer-drones

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 ”ドローンvsジャミング”のイタチごっこで生まれた「画像認識ドローン」「光ファイバー式ドローン」とは?