- 週間ランキング
研究グループは、この自然界の高度な静音技術を大型ドローンのプロペラに応用しました。
プロペラ前縁部にフクロウの翼を模した鋸歯形状を設計し、数値流体力学の手法であるラージ・エディ・シミュレーション(LES)とFfowcs Williams-Hawkings音響アナロジーという高度な計算手法を駆使して、最適なデザインを追求しました。
その結果、鋸歯の振幅と幅をそれぞれ6mm、間隔を8mmに設定した「SER6」という設計が、騒音低減と空力性能のバランスにおいて最も優れた成果を示しました。
では、実際にこの新しいプロペラはどのくらい騒音を抑えられるのでしょうか?
実験では、この新しいプロペラが最大で3dBの騒音低減を達成しました。
ここでいう3dBとはどの程度の騒音低減を意味するのでしょうか。
普通の会話は約60dBであり、掃除機の音は約70dBだと言われます。
10dBの差はこれくらいはっきりしたものですが、今回の騒音低減効果とは、この3分の1程度ということです。
3dBに対する人間の耳が感じる騒音の変化は明らかであり、皆が「静かになった」とはっきりと認識できるものです。
とはいえ3dB低減では、「劇的な効果」というよりも「やや静かになった」と確実に認識できるレベルです。
「たった3dB」と思われるかもしれません。
しかし、騒音対策が難しいドローン分野において、この小さな改善は極めて重要な成果です。
特に都市部での運用において、この差がドローンの社会受容性を決定的に変える可能性があります。
また、通常は騒音低減を追求するとプロペラの空力性能(推力や効率)が大きく低下するというトレードオフが存在します。
しかし、今回の設計では空力性能の低下を4〜8%という軽微なレベルに抑えることにも成功しています。
この「騒音低減」と「性能維持」の絶妙なバランスが、このプロペラ設計の大きな魅力です。
この技術は大型ドローンだけでなく、空飛ぶクルマなど未来の移動手段にも適用可能でしょう。
静かなプロペラが、ドローンや空飛ぶクルマを日常生活に溶け込ませる日も、そう遠くはないかもしれません。
参考文献
自然界の静音設計をドローンへ ~フクロウの翼に学ぶ新技術~
https://www.chiba-u.jp/news/research-collab/ryu.html
元論文
Owl-inspired leading-edge serrations for aerodynamic noise mitigation in drone propellers Available to Purchase
https://doi.org/10.1063/5.0268150
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部