恐竜といえば牙や爪を武器にした肉食恐竜を想像しがちですが、じつは草食恐竜にも「切り札」はあったようです。

オーストリア・ウィーン大学(University of Vienna)らの新たな研究によると、2億年前のヨーロッパに生息していた草食恐竜プラテオサウルスは、自らの「尻尾」をまるでムチのように振るい、驚異的なエネルギーを生み出していたことが判明しました。

その一撃の威力は、なんとプロボクサーのパンチ約174発分に相当していたようです。

研究の詳細は2025年5月21日付で科学雑誌『Royal Society Open Science』に掲載されています。

目次

  • ボクサーのパンチ174発分の威力
  • 敵だけでなく、仲間内でも使われていた可能性

ボクサーのパンチ174発分の威力

プラテオサウルス(Plateosaurus)は、今からおよそ2億1400万~2億400万年前の三畳紀後期にヨーロッパで繁栄していた大型の草食恐竜です。

全長は5〜10メートル、体重は1トン(600キロ〜最大4トン)にもなり、長い首、小さな頭部、そして特徴的な長い尾を持っていました。

プラテオサウルスのイメージ図/ Credit: ja.wikipedia

近年、スイスのフリックで発掘されたプラテオサウルスの化石には、非常に保存状態の良い尾の骨格が含まれており、2021年からウィーン自然史博物館に展示されています。

この尾の骨格には、従来の化石には珍しい「ムチ状の先端」が完全な形で残されており、科学者たちはそこに注目しました。

この尾の先端部分は、全体の約3割を占めるほど細く、しなやかに曲がる構造をしており、まさに「しなり打ち」に適した形状。

研究者たちは、これが防御用のムチとして使われていたのではないかと考え、現代のオオトカゲやイグアナの尾打ち行動と比較することで、その威力を計算しました。

その結果、尾の先端部分だけでも約1.6キロジュールの打撃を与えることができたと推定しました。

さらに尾の全体を横に振った場合、最大で約174キロジュール(kJ)もの運動エネルギーが発生することが示されたのです。

これまでの研究で、現役のプロボクサーのパンチがだいたい1キロジュールとされているので、プラテオサウルスの一撃はプロボクサーのパンチ174発分の威力に達すると考えられます。

これは肉体に直撃すれば、小型の恐竜などであれば即死レベルですし、大型の捕食者に対して十分な防御になると見られます。

敵だけでなく、仲間内でも使われていた可能性

プラテオサウルスはトリケラトプスやアンキロサウルスとは違い、皮膚の装甲や角といった防御装置を持たない恐竜でした。

そのため、「どうやって身を守っていたのか」は長年の謎とされてきました。

今回の研究では、プラテオサウルスの尾に含まれる43個の椎骨の構造を詳細に分析。

後半部分の骨は次第に小さく、細長くなっており、柔軟なムチのような動きが可能だったことが明らかになりました。

また、尾の質量や可動域、そして現代のトカゲの動きをもとにしたシミュレーションにより、「鞭打ち」のような攻撃行動が現実的なものであったと推定されました。

そして興味深いのは、この尾の使用目的が単なる「捕食者よけ」だけにとどまらなかった可能性があることです。

現生のオオトカゲやイグアナのように、尾打ちは縄張り争いや繁殖相手をめぐる闘争、さらには子どもを守る行動にも使われます。

実際、研究ではプラテオサウルスが「群れで暮らしていた」可能性も指摘されており、個体間でのコミュニケーションや争いの中でも尾が使われていたのではと考えられています。

プラテオサウルスの復元イメージ/ Credit: Thomas Filek et al., Royal Society Open Science(2025)

また、同時代に生息していた肉食恐竜リリエンステルヌスなどは体長5メートル程度で、プラテオサウルスより小柄でした。

つまり、特に若い個体が狙われる危険はあったとしても、その尾の一撃で十分に撃退可能だったとも考えられるのです。

恐竜の世界は食うか食われるかの厳しい世界です。

その中にあって、草食恐竜は不利だと思われていますが、彼らも柔軟な生存戦略によって身を守っていたのでしょう。

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参考文献

Plateosaurus tail may have served as a powerful defensive weapon, paleontologists discover
https://phys.org/news/2025-05-plateosaurus-tail-powerful-defensive-weapon.html

元論文

Tail of defence: an almost complete tail skeleton of Plateosaurus (Sauropodomorpha, Late Triassic) reveals possible defence strategies
https://doi.org/10.1098/rsos.250325

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 尻尾の一撃が「ボクサーのパンチ174発分」の草食恐竜がいた!