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近年、スイスのフリックで発掘されたプラテオサウルスの化石には、非常に保存状態の良い尾の骨格が含まれており、2021年からウィーン自然史博物館に展示されています。
この尾の骨格には、従来の化石には珍しい「ムチ状の先端」が完全な形で残されており、科学者たちはそこに注目しました。
この尾の先端部分は、全体の約3割を占めるほど細く、しなやかに曲がる構造をしており、まさに「しなり打ち」に適した形状。
研究者たちは、これが防御用のムチとして使われていたのではないかと考え、現代のオオトカゲやイグアナの尾打ち行動と比較することで、その威力を計算しました。
その結果、尾の先端部分だけでも約1.6キロジュールの打撃を与えることができたと推定しました。
さらに尾の全体を横に振った場合、最大で約174キロジュール(kJ)もの運動エネルギーが発生することが示されたのです。
これまでの研究で、現役のプロボクサーのパンチがだいたい1キロジュールとされているので、プラテオサウルスの一撃はプロボクサーのパンチ174発分の威力に達すると考えられます。
これは肉体に直撃すれば、小型の恐竜などであれば即死レベルですし、大型の捕食者に対して十分な防御になると見られます。
プラテオサウルスはトリケラトプスやアンキロサウルスとは違い、皮膚の装甲や角といった防御装置を持たない恐竜でした。
そのため、「どうやって身を守っていたのか」は長年の謎とされてきました。
今回の研究では、プラテオサウルスの尾に含まれる43個の椎骨の構造を詳細に分析。
後半部分の骨は次第に小さく、細長くなっており、柔軟なムチのような動きが可能だったことが明らかになりました。
また、尾の質量や可動域、そして現代のトカゲの動きをもとにしたシミュレーションにより、「鞭打ち」のような攻撃行動が現実的なものであったと推定されました。
そして興味深いのは、この尾の使用目的が単なる「捕食者よけ」だけにとどまらなかった可能性があることです。
現生のオオトカゲやイグアナのように、尾打ちは縄張り争いや繁殖相手をめぐる闘争、さらには子どもを守る行動にも使われます。
実際、研究ではプラテオサウルスが「群れで暮らしていた」可能性も指摘されており、個体間でのコミュニケーションや争いの中でも尾が使われていたのではと考えられています。
また、同時代に生息していた肉食恐竜リリエンステルヌスなどは体長5メートル程度で、プラテオサウルスより小柄でした。
つまり、特に若い個体が狙われる危険はあったとしても、その尾の一撃で十分に撃退可能だったとも考えられるのです。
恐竜の世界は食うか食われるかの厳しい世界です。
その中にあって、草食恐竜は不利だと思われていますが、彼らも柔軟な生存戦略によって身を守っていたのでしょう。
参考文献
Plateosaurus tail may have served as a powerful defensive weapon, paleontologists discover
https://phys.org/news/2025-05-plateosaurus-tail-powerful-defensive-weapon.html
元論文
Tail of defence: an almost complete tail skeleton of Plateosaurus (Sauropodomorpha, Late Triassic) reveals possible defence strategies
https://doi.org/10.1098/rsos.250325
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部