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こうした人々にとって、他者からの忠告や反論は、単なる「アドバイス」や「意見の違い」ではありません。それらはまるで、自分の理想像を揺るがす“脅威”として感じられてしまうのです。
そのため彼らは、些細なアドバイスや指摘でも「自分の価値が否定された」「見下された」という形で解釈し、それを怒りという攻撃的な感情で跳ね返そうとします。つまり、怒りは“自分の特別さを守る最後の砦”のように機能しているのです。
この構造を理解することで、私たちは「なぜあの人は、素直に人の意見を聞かないのか?」という問いに、より冷静に向き合えるようになります。
こうした脆弱なナルシシズムの特性を理解できれば、「何気ない一言でも、あの人は『自分が否定された』と受け取る」と事前に想定できますし、本人の理想像を壊さないように誘導してあげることで、反発を避けて言うことを聞かせることもできます。
もちろん、これは「怒りっぽい人を甘やかそう」という話ではありません。
人を使うのが上手い人は、こうした相手の性格特性に合わせた誘導が無意識に出来ていると考えられます。
そのため、こうした性格特性の特徴と、それに応じた対策を理論的に理解しておくことは、仕事を円滑に進める上でも重要な知識です。
また、こうした性格特性が強くなりすぎると、「自分を否定された」と感じた瞬間に激しく怒ったり、自分の評価を下げた相手に報復しようとする行動を繰り返すようになり、職場でもSNS上のやり取りでも、あらゆる人間関係で深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。
今回の研究は、そのような問題を未然に防ぐためにも重要な意味を持っています。「どんなときに、どんな相手に、どんな反応が起きやすいのか」という心理的なメカニズムを明らかにすることで、本人や周囲が早めに気づき、関係の悪化を防ぐ手がかりになるからです。
「なんで素直に人の言う事が聞けないの?」「なんでそんなことで怒るの?」――一見理解しがたい相手の行動の裏に潜む心理を、心理学の研究は明らかにしようとしています。
私たちはしばしば、怒りっぽい人、言うことを聞かない人に戸惑い、イライラし、距離を取りたくなります。
けれど、そうした人たちの奥にあるのは、単なるわがままや性格の悪さではなく、「自分の理想像を崩されることへの恐怖」かもしれません。
もちろん、それを理解したからといって、すべて相手の特性に付き合う必要はありません。けれど、相手の反応を「異常」や「理不尽」と決めつける前に、「なぜその反応が起こるのか」を知ることができれば、無用な衝突やストレスを減らすヒントになるはずです。
人間関係の難しさは、感情の動きが見えにくいことにあります。今回の研究は、その“見えにくい領域”に光を当て、怒りという感情の奥にある構造を、私たちに教えてくれるものでした。
参考文献
Why Narcissists Can’t Stand to Be Seen as Weak
https://www.psychologytoday.com/au/blog/fulfillment-at-any-age/202505/why-narcissists-cant-stand-to-be-seen-as-weak
元論文
Narcissism’s effect on regulatory processes in interpersonal situations
https://doi.org/10.1037/per0000693
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部