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思わぬ事態に、アチソンくんの父親もこれはただ事ではないと気づき、現場を管理する州立公園の職員に報告。
その後、同公園が海洋遺産の保護活動を行っている「オンタリオ海洋遺産委員会(OMHC)」に連絡しました。
アチソンくんの話を聞いたOMHCの考古学者たちは、現場を本格的に発掘するための許可が下りるのを待った後、今年初めについに発掘作業を開始。
すると、何本ものスパイクが打たれた「ダブルフレーム構造」の船体の一部が出土したのです。
これは通常より頑丈に作られたスクーナー船(2本マストの帆船)に特有の構造でした。
調査チームはスケッチや写真記録を取りながら船体の全貌を把握し、現時点では船の一部しか見つかっていませんが、これは1856年に沈没したとされる「セント・アンソニー号」である可能性が主張されています。
セント・アンソニー号は1856年10月、米国イリノイ州シカゴからヒューロン湖を渡って、ニューヨーク州バッファローへ穀物を輸送している最中に、嵐に遭い消息を絶ちました。
座礁した場所はカナダ・オンタリオ州中西部の都市ゴドリッチの北約6キロ地点とされており、これはアチソンくんが船の残骸を発見した場所と、ほぼ一致します。
船体の一部であることが確認されたフレームには、19世紀当時の船舶保険に記された「スパイクの本数」や「間隔」などの仕様と照らし合わせることで、沈没船の年代や正体を特定できる可能性があります。
こちらはアチソンくんと発掘の様子をまとめた映像。
現在、調査チームは沈没船の図面を作成し、資料と照合する作業を進めています。
今後はデジタルモデリングや3Dスキャンを用いた解析も視野に入れ、船の構造や材質、沈没の原因などを詳しく明らかにしていく予定です。
しかし、これほどの貴重な歴史的遺物でも、自然環境の中では急速に劣化してしまうリスクがあります。
そこでOMHCは、発掘した部分を再び埋め戻し、酸素のない「嫌気性環境」で保存する方針を選びました。
「この方法は完璧ではありませんが、船体の構造を今後50年は保つことができる」と語るのは、海洋考古学者のスカーレット・ジャヌサス氏。
酸素を遮断することで、バクテリアや寄生生物による劣化を防ぐのです。
なお、アチソンくんは今も新しい探知機を手に、別の発見を夢見て活動を続けています。
参考文献
8-year-old kid with a metal detector stumbles upon a 19th century shipwreck
https://www.popsci.com/science/8-year-old-shipwreck-metal-detector-canada/
‘I did not expect to find a shipwreck!’says boy whose treasure is being excavated
https://www.cbc.ca/news/canada/london/i-did-not-expect-to-find-a-shipwreck-says-boy-whose-treasure-is-being-excavated-1.7531183
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部