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しかし研究チームは、そこに疑問を持ちました。本当に女性ばかりに起こるのか? 男性は見逃されているだけではないのか?
たこつぼ型心筋症は、心筋梗塞のような症状を起こしますが、心臓の血管は詰まっていないため、見逃されやすい病気でもあります。特に男性の方が受診をためらったりする傾向があり、診断が遅れやすいという背景がありました。
そこで研究チームは、性別による発症率や死亡率、合併症の違いを詳しく調べることにしました。
使われたのは、アメリカ全土の入院患者データを集めた「NIS(Nationwide Inpatient Sample)」という巨大なデータベースです。2016年から2020年の間に入院した18歳以上の患者、約2億人の記録から、たこつぼ型心筋症と診断された約20万人のデータを抽出し、詳細な統計分析を行いました。
すると患者のうち83%が女性でしたが、死亡率を比べると、男性は11.2%、女性は5.5%と、男性が倍以上の致死率を示していたのです。
なぜ発症率は女性の方が高いのに、男性のほうが死亡率が高くなっているのでしょう?
調査の結果、患者全体のうち83%は女性でした。しかし注目すべきは死亡率です。女性の死亡率が5.5%だったのに対し、男性では11.2%と、実に2倍以上だったのです。
さらに、患者の多くが心不全(35.9%)や心房細動(20.7%)、心停止(3.4%)、脳卒中(5.3%)といった深刻な合併症を起こしており、病気自体の危険性が非常に高いこともわかりました。
なぜ、発症数が少ないはずの男性のほうが、危険な症状に発展し命を落としやすいのでしょうか?
研究チームはその理由をいくつか挙げています。
まず、男性は「身体的ストレス」が引き金となる場合も多く、重症化しやすい傾向があります。たとえば、手術や感染症、大けがなどがきっかけとなる場合が多く、発症時点ですでに危険な状態になっている可能性があるのです。
また、感情的なストレスに対しては「自分は大丈夫」と我慢し、医療機関を受診するのが遅れがちである点も影響していると見られています。そのため、診断時にはすでに重篤な状態になっていることが少なくないのです。
さらに、女性ホルモンの一種であるエストロゲン(Estrogen)には、心臓をストレスから守る働きがあるとも言われており、こうした生理的な違いも死亡率の差に関わっている可能性があります。
研究期間の5年間を通じて、死亡率や合併症の発生率はほとんど改善せず、むしろ悪化している項目もありました。つまり、医療の進歩があってもなお、この病気は命を脅かす存在であり続けているのです。
この研究は、「男性は感情的・身体的ストレスに対して過小評価されやすく、その結果として重篤化しやすい」という重要な警鐘を鳴らしています。
もし、身近な男性が大きなショックを受けたあと、胸の痛みや息苦しさを訴えていたら、それは「心の問題」ではなく「心臓の病気」かもしれません。
ブロークンハート症候群は、一見すると精神的な問題のように見えても、実際には命にかかわる心臓の疾患です。ストレスは、性別に関係なく心と体の両方に影響を及ぼしますが、特に男性の心臓には「思ったよりも大きな負担」がかかっている可能性があります。
愛する人を失った悲しみで、心が折れるだけでは済まされない。それは、文字通り「心臓が壊れる」ことにつながるのです。
どうか、あなた自身も、あなたの大切な人も、「強くあらねば」と思いすぎず、必要なときには医療の助けを借りてください。それが、命を守ることにつながるのです。
参考文献
Broken Heart Syndrome Still Deadly, Especially for Men
Broken Heart Syndrome Still Deadly, Especially for Men
https://neurosciencenews.com/broken-heart-syndrome-mortality-28922/
元論文
High Mortality and Complications in Patients Admitted With Takotsubo Cardiomyopathy With More Than Double Mortality in Men Without Improvement in Outcome Over the Years
https://doi.org/10.1161/JAHA.124.037219
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部