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牛や豚などの家畜は、すでに栄養バランスを整えた人工飼料によって管理されていますが、ミツバチだけは自然界の花粉に頼りきりだったのです。
そのため、花粉が少ない時期には深刻な栄養不足に陥ります。
研究チームも次のように述べています。
「ミツバチは雑食性で、すべての栄養を単一の供給源から得ているわけではありません。
生き残るためには多様な食生活が必要であり、コロニーの維持に必要な花粉を継続的に確保することはますます難しくなっています」
大規模な単一作物農業や生息地の減少により花粉源が著しく減少しています。
また市販の補助食では一部の栄養素しか補えず、根本的な解決にならないという問題が長年続いていました。
しかし、ワシントン州立大学の研究者たちはついに、ミツバチのための完全栄養食の開発に成功しました。
開発された新しい完全栄養食は、ミツバチに必要なすべての栄養素を含んでいます。
研究チームは、この栄養源を、「人間のパワーバー(Power Bars)に似ている」と述べています。
ミツバチのコロニーに直接投入されると、若いミツバチがそれらを加工し、幼虫や成虫に対する必須栄養素として分配するのです。
このミツバチの完全栄養食には、ステロールの役割が大きく関わっています。
ステロールとは、脂質の一種であり、細胞膜を構成したり、細胞の機能を維持したりする重要な成分です。
人間ではコレステロールがよく知られていますが、ミツバチにとっても成長や神経機能を支えるうえで不可欠な栄養素です。
そのため、この栄養食の開発は、ミツバチが自然界で摂取しているステロールの組成を詳細に分析するところから始まりました。
その結果、成長・免疫・神経機能にとって重要な6種類が厳選され、特にイソフコステロールという成分が、ミツバチの成長と神経機能に不可欠であることが判明しました。
そして研究チームは、他の栄養素と共に、これら6種類の主要ステロールを適切なバランスで人工的に配合。
これまで存在してこなかった「ハチミツの完全栄養食」を開発することに成功しました。
実験では、この栄養食が与えられたミツバチの群れが、周囲から花粉が得られない環境でも1シーズン生き延びることができました。
一方、完全栄養食が与えられなかったミツバチの群れでは、幼虫の生産量の減少、成虫の麻痺、群れの崩壊など深刻な影響が見られました。
また、ブルーベリー畑やヒマワリ畑といった過酷な環境下(ミツバチにとっては栄養素に偏りがある)でも、完全栄養食を与えられたミツバチたちは安定して子育てを続け、群れの規模を拡大することができました。
新しい栄養食にはミツバチに必要な成分が含まれていることが証明されたのです。
この完全栄養食が広まるなら、栄養不足による生産率低下に悩む養蜂家を助けることができるでしょう。
参考文献
New pollen-replacing food for honey bees brings new hope for survival
https://news.wsu.edu/press-release/2025/04/15/new-pollen-replacing-food-for-honey-bees-brings-new-hope-for-survival/
元論文
A nutritionally complete pollen-replacing diet protects honeybee colonies during stressful commercial pollination—requirement for isofucosterol
https://doi.org/10.1098/rspb.2024.3078
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部