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これまでの研究では「大脳皮質」という脳領域が関わっている可能性が指摘されています。
しかしヒトを含む哺乳類では、睡眠の検出自体が大脳皮質の活動に依存しているため、もし大脳皮質を操作すると睡眠そのものの判定が難しくなるという課題がありました。
そこで研究チームは今回、爬虫類の「オーストラリアドラゴン(学名:Pogona vitticeps)」を用いることにしました。
オーストラリアドラゴンは、睡眠と覚醒を大脳皮質ではなく、「DVR(背側脳室隆起)」という別の脳部位の脳波で判定できるという特長があるからです。
そしてチームは、このオーストラリアドラゴンを寝不足にさせる実験を行いました。
オーストラリアドラゴンは一般に、消灯される夜8時から翌朝8時までの12時間眠る習性を持っています。
実験ではまず、オーストラリアドラゴンが通常眠り始める夜7時から深夜2時まで、ハンドリング(手の上であやす)や好物のコオロギを見せるなどして眠りを妨げ、睡眠時間をはく奪しました。
そして7時間の寝不足を強いられたドラゴンたちは、その後の睡眠でDVR脳波の振幅が大きくなるリバウンド現象を示すことが確認されています。
次に、別の個体群で大脳皮質を外科手術により切除し、同様の実験を行いました。
すると、睡眠中の脳波は通常時とほとんど変わらなかったものの、寝不足後のリバウンド現象が著しく減少することが分かったのです。
この結果は、寝不足によって生じる眠気が大脳皮質に蓄積され、それがDVRの脳波活動に影響を与えることでリバウンドが起きることを直接的に示すものでした。
つまり、眠気は漠然と脳全体に広がるものではなく、「大脳皮質」という特定の領域にしっかりとたまっていくことが明らかになったのです。
この発見は、強い眠気の実体を解明するための大きな一歩といえます。
また、今後ヒトを含めた脊椎動物全体に共通する睡眠メカニズムの理解に繋がる可能性も秘めています。
寝不足後にぐっすり眠れた夜、その背後ではあなたの大脳皮質が黙々と「眠気の借金」を返していたのかもしれません。
参考文献
寝不足の後、深い睡眠にいざなわれる仕組み ~「眠気」は大脳皮質に蓄積する~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/04/post-808.html
元論文
Sleep homeostasis in lizards and the role of the cortex
https://doi.org/10.1073/pnas.2415929122
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部