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近年の意識調査では、「育児に参加したい」「子どもと過ごす時間を大切にしたい」と考える男性の割合は8割を超えるとも言われています。
しかし実際には、家事育児の多くが依然として母親に偏っており、父親の平日の育児時間は1日あたりわずか1時間未満というデータもあります。
「参加したいけど、どう関わっていいかわからない」「仕事との両立が難しい」など、気持ちと行動の間にギャップが生じてしまっているのが現状です。
では、男性が育児に関わることで、子どもや家庭にどのようなメリットがあるのでしょうか?
「育児参加=子どものためになる」と直感的に思う人も多いですが、その具体的な効果はあまり知られていませんでした。
今回、富山大学の研究チームは父親による育児のメリットを明らかにするため、乳幼児の事故率に焦点を当てた研究を行いました。
研究に用いられたのは、環境省が主導する大規模な出生コホート調査『エコチル調査(Japan Environment and Children’s Study)』のデータです。
対象となったのは、2011〜2014年にかけて全国で登録された約10万人の親子のうち、72,343組のデータ。
分析では、子どもが生後6か月の時点での父親の育児行動(室内遊び、外遊び、食事の世話、おむつ交換、衣服の着脱、入浴、寝かしつけ)7項目を、母親の回答に基づいて4段階評価(3:いつもする~0:まったくしない)で数値化し、合計スコア(0〜21点)を算出しました。
これをもとに、「低群(0〜11点)」「中群(12〜14点)」「高群(15〜21点)」の3つのグループに分類しました。
その後、子どもが生後〜4歳の間に受診が必要なレベルのけが(外傷・熱傷)を経験したかどうかを質問票で確認し、父親の育児スコアとけがの発生率との関連を分析しました。
では、父親による育児にはいったいどれほどのメリットがあるのでしょうか。
分析の結果、全体における子どもの外傷(骨折を含む)の発生率は5.0%、熱傷(やけど)は4.0%でした。
注目すべきは、父親の育児行動スコアが高いグループでは、子どもの外傷の発生率が有意に低かったという点です。
具体的には、「高群」での外傷率は4.8%、「中群」では4.9%、そして「低群」では5.3%でした。
父親の育児関与が高いほど、けがの発生が抑えられる傾向にあると分かります。
さらに、育児行動の各項目ごとに個別の関連性を検討したところ、「室内遊び」「外遊び」「食事の世話」「入浴」「寝かしつけ」の5項目で、父親が「まったくしない」と答えた場合よりも、「ほとんどしない」「ときどきする」「いつもする」と答えた場合のほうが、子どもの外傷発生リスクが低くなることが示されました。
一方で、熱傷については、父親の育児スコアとの有意な関連性は見られませんでした。
これは、熱傷が主に調理中などに起こることが多く、これらの場面における父親の関与が少ないためと考えられます。
この研究にはいくつかの限界があります。
たとえば、育児行動は母親からの評価によるものであり、実際の行動とのずれがある可能性があります。
また、父親の育児行動は生後6か月時点に限定されており、その後の変化は把握できていません。
それでも今回の結果は、「父親が早期から育児に積極的に関与することが、子どもの外傷リスクを下げる可能性がある」という貴重な知見を提供しています。
父親が子どもの日常行動をよく観察し、未熟な危機察知能力を補う形で関わることが、予防的に働くのかもしれません。
そしてそれは、子どもの安全確保にとどまらず、父子間の信頼関係の構築や父親自身の育児への自信にもつながるでしょう。
子育ては「母親の仕事」と決めつける時代ではありません。
「完璧でなくてもいい」
父親が一歩を踏み出すことが、子どもの未来に温かな影響をもたらす——今回の研究は、そんな希望を私たちに届けてくれました。
参考文献
父親が積極的に育児に取り組むと 乳幼児期の子どものけがが減る可能性がある(エコチル調査より)
https://www.u-toyama.ac.jp/news-press/110589/
元論文
Association between paternal involvement in childcare and child injury: the Japan Environment and Children’s Study (JECS)
https://doi.org/10.1186/s12887-025-05453-7
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部