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特に、飲酒とコレステロールの関係については明確な結論がなく、飲酒がどのように脂質代謝に影響を与えるのかについては不明な点が多い状況でした。
今回の研究では、2012年から2022年までに健康診断を受けた日本人57,691人のデータを分析しました。
対象者は2回の検査の間に飲酒の習慣がどのように変化したのか分析され、彼らは「一貫して飲酒している人」「飲酒をやめた人」「新たに飲酒を始めた人」「一貫して飲酒しない人」の4つのグループに分類されました。
そして研究では、健康診断データからコレステロール値を測定し、飲酒習慣の変化がどのように血中脂質に影響を及ぼすのかを調査しました。
また、年齢や性別、BMI、運動習慣、喫煙状況などの影響を考慮し、それらを統計的に補正することで、アルコール摂取の純粋な影響を分析しました。
その結果は、お酒が好きな人にとって「ちょっと嬉しい」ものでした。
解析の結果、新たに飲酒を始めた人はHDL-C(善玉コレステロール)が増加し、LDL-C(悪玉コレステロール)が減少することが明らかになりました。
例えば、もともと飲酒習慣のなかった人が1日1.5~3杯の飲酒を始めた場合、HDL-Cが2.49 mg/dL上昇し、LDL-Cが4.40 mg/dL低下する傾向が見られました。
さらに、飲酒量が増えるとその変化がより顕著になることも確認されました。
一方で、飲酒をやめた人ではLDL-Cが増加し、HDL-Cが減少する傾向が確認されました。
例えば、もともと1日1.5~3杯の飲酒習慣がある人が、お酒をやめた場合、HDL-Cが3.35 mg/dL減少し、LDL-Cが3.71 mg/dL増加する傾向が見られました。
また、1日3杯以上の飲酒をやめた場合にはLDL-Cが約6.5 mg/dL上昇し、HDL-Cは約5.6 mg/dL低下することが確認されました。
つまりこの研究では、お酒を飲み始めるとコレステロール値が改善し、お酒をやめると血中コレステロール値が悪化するという結果になりました。
ちなみに、お酒の種類は様々ですが、どのアルコール飲料を飲んでも結果は同じでした。
ではなぜ、飲酒がコレステロール値を下げるのでしょうか。
アルコールがどのようなメカニズムでコレステロール値を変化させるのかは依然として明確ではありません。
考えられる要因として、アルコール摂取者は炭水化物や甘いものの摂取量が少なく、魚の摂取量が多い傾向があることが挙げられます。
特に青魚に含まれるEPAやDHAはコレステロール値を改善する作用を持っているため、飲酒者の食習慣が影響している可能性があります。
また、低炭水化物ダイエットが体重を減らす一方で、LDL-Cを増加させる場合があることも指摘されており、本研究ではこの影響が直接確認されたわけではありませんが、炭水化物の摂取量が少ないことが関係している可能性はあります。
お酒好きにとってちょっと嬉しいこの研究結果は、アルコールの健康への影響について新たな視点を提供するものです。
しかし当然ながら、飲酒を推奨するものではありません。
適量の飲酒が健康に及ぼす影響については依然として議論があり、近年の研究では少量の飲酒でもがんリスクが上昇する可能性が示唆されています。
特に過剰な飲酒は肝臓や心血管系に悪影響を与えるため危険です。
飲酒習慣を見直す際にはコレステロール値の変化だけでなく、全体的な健康リスクを考慮しながら慎重に進めることが推奨されます。
参考文献
Large study shows drinking alcohol is good for your cholesterol levels
https://arstechnica.com/health/2025/03/large-study-shows-drinking-alcohol-is-good-for-your-cholesterol-levels/
元論文
Lipid Profiles After Changes in Alcohol Consumption Among Adults Undergoing Annual Checkups
https://dx.doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.0583
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部