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チームは、アメリカで行われている「Nurses’ Health Study II(NHS2)」という大規模な調査データを分析しました。
この調査は1989年から開始され、10万人以上の女性が参加しています。
チームは、このデータに登録されている約3万2000人の女性の食事記録をもとに、2003年から2017年の間にうつ病を発症した人の割合を調べました。
その結果、柑橘類を毎日食べていた人は、そうでない人と比べて、うつ病の発症リスクが22%低いことが明らかになったのです。
この効果は柑橘類に特有のものでした。
参加者の野菜摂取量やリンゴ・バナナといった他の果物の摂取量を調べたところ、それぞれの摂取量とうつ病リスクとの間に関連は見られなかったのです。
つまり、うつ病の発症リスクを下げられる果物は、ミカンを代表とする柑橘類の専売特許と考えられるわけです。
では、なぜ柑橘類を食べるとうつ病リスクが下がるのでしょうか?
調査の中で、チームは柑橘類の摂取が「フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)」という特定の腸内細菌の増加と関連していることを見出しました。
参加者の便サンプルを調べてみると、柑橘類をよく食べていた人の便には、柑橘類を食べない人の便に比べて、F. プラウスニッツィイが多く含まれていたのです。
このことからチームは「F. プラウスニッツィイが柑橘類の摂取と良好なメンタルヘルスを結びつける役割を果たしているのではないか」と考えられました。
そこで男性を対象とした別の調査データ「Men’s Lifestyle Validation Study(男性のライフスタイル検証研究)」も調べたところ、便サンプル中のF. プラウスニッツィイが多い男性ほど、うつ病リスクが有意に低くなっている証拠が見つかったのです。
では、F. プラウスニッツィイはどのように心の健康と関係するのでしょうか?
これについてチームは次のように説明します。
F. プラウスニッツィイが「S-アデノシル-L-メチオニン回路 I」という代謝経路を活性化することで、セロトニンやドーパミンといった「幸せホルモン」の分泌を促すのです。
これらの神経伝達物質は、消化管内で食物の通過を調整する役割を持っていますが、脳にも届いて気分を高める作用を持っています。
まとめると、柑橘類を食べることで腸内のF. プラウスニッツィイが増え、セロトニンやドーパミンの分泌が促進され、それが気分の向上につながり、うつ病が起きにくくなる可能性があるのです。
(またこの研究では、柑橘類に含まれるナリンゲニンという成分がF. プラウスニッツィイの増加を促すことも突き止められました)
今回の研究は「柑橘類の摂取がうつ病のリスクを低下させる可能性がある」ことを示すものです。
しかし当然ですが「ミカンさえ毎日食べていれば、確実にうつ病が予防できる」とは言えません。
うつ病は食事だけでなく、遺伝やストレス、生活環境など多くの要因が絡み合って生じる複雑な病気です。
とはいえ、日々の食生活がメンタルヘルスに与える影響は決して小さくありません。
うつ病のリスクを下げるためにも、健康的な食事習慣を取り入れることが重要です。
今日から1日1個のミカンを食べる習慣を始めてみてはいかがでしょうか?
参考文献
Forget apples—researcher outlines how an orange a day may reduce depression risk by 20%
https://medicalxpress.com/news/2025-02-apples-outlines-orange-day-depression.html
元論文
F. prausnitzii potentially modulates the association between citrus intake and depression
https://doi.org/10.1186/s40168-024-01961-3
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部